人間のもつ物質的な欲望を一切たちきって、ひたすら心の豊かさのみを求めて清貧に甘んずることは、一応善だと思われますが、しかしそれはあまりにも一方に偏していて本能と調和している姿とは言えないのであります。これは善だと言いきれません。神ならばいざしらず、人間であるかぎり、心の豊かさとともに物の豊かさを望むのが当然の在り方であり、人間としての本質に生きる姿であると思うのであります。

PHPのことば』(1953)