本コラムでは、松下幸之助をはじめとする日本の名経営者・実業家の考え方やことばを紹介しながら、リーダーとして心得ておきたい経営の知恵を解説します。

 

<真の経営者とは> “初めに言葉ありき”

将来ビジョンを明示する

 昭和五十二年、松下幸之助は、二十一世紀初頭の日本のあるべき姿を描き、『私の夢・日本の夢 21世紀の日本』という書籍にまとめて発表した。

 その「まえがき」のなかで、松下は、“初めに言葉ありき”という聖書の句を引いて、「私が経営においてやってきたのは、いわばそういうことだった。最初に一つの発想をし、それを“このようにしよう”という言葉に表し、みんなで達成していくということをやってきたのである」といっている。

 

 松下のいうように、まず経営者が、“こうやってみたい”“こうありたい”といった希望や理想を将来ビジョンとして力強く発表し、その経営を何のために行なっていくのか、いかにして行なっていくのかという基本の考え方、経営理念と具体的な目標を社員に明示する。それがやはり事業活動の第一歩といえよう。

 

 それらが力強く社員に語りかけられ、訴え続けられて、組織のすみずみにまで浸透し、それぞれの目指すべき方向が明確になれば、それが精神的支柱、判断のよりどころとなって、経営者のみならず社員の行動、信念に力強さが生まれてくる。目標を達成しようとする意欲と社員間のまとまりも生まれ、全社一丸となって、その実現に努力するようになる。

 

 松下も、「過去、幾多の困難に遭遇したが、困難のなかで皆の支えとなったのは、生産人としての使命感であり、何のためにこの経営を行なっていくのかという会社の経営理念であった」と語っている。

 

正しい経営理念確立のために

 もとより経営理念や方針が有効適切に機能するためには、それらが経営者の正しい人間観、社会観に根ざしたものでなければならないし、さらには真理というか社会の理法、自然の理法にかなったものでなくてはならない。そうした自然の摂理、真理にかなった正しい人間観、社会観が根底にあってこそ、真に正しい経営理念、方針も生まれ、誤りのない確固たる経営ができるのである。

 

 今、企業を取り巻く経営環境は急激に変化し、その変化はますます激しさを増そうとしている。不透明な為替の動き、技術革新競争の激化、グローバル化の波といった激動のなかで、企業は生き残りをかけた経営の革新に懸命に取り組んでいる。それだけに、上に立つ者の舵の取り方いかんが、いっそう重みを増しつつある。

 

 二十一世紀の日本と世界の繁栄を支え続けることができる企業となるために、今、それぞれの経営者には、人間いかにあるべきか、人間社会いかにあるべきかという、それぞれの哲学から発した的確な将来ビジョン、正しい経営理念を確立し、社員に明示していくことが何よりも強く求められているといえよう。

 

◆『部下のやる気に火をつける! リーダーの心得ハンドブック』から一部抜粋、編集
 

筆者

佐藤悌二郎(PHP研究所専務取締役)
 

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