本コラムでは、松下幸之助をはじめとする日本の名経営者・実業家の考え方やことばを紹介しながら、リーダーとして心得ておきたい経営の知恵を解説します。

 

<真の経営者とは> 「毎日が創業!」の精神

ワコールの五十年計画

 第二次世界大戦で、かの激烈なインパール作戦に参加し、奇跡的に生還したワコールの創業者、塚本幸一氏は、復員船の中で、“自分はどうして生きているのか”という疑問に駆られた。そして“自分は生きているのではない。生かされているのだ”とふと感じ、“よし、自分の生命はもう減価償却済みだ。これからの一日一日、一刻一刻、自分ができることを最大限の力を発揮してやってみよう”と決意したという。


 昭和二十四年、塚本氏は、婦人下着の製造卸会社を設立、翌年には五十年計画を立てた。それは、五十年を十年ずつ五節に分け、第一節を国内市場開拓の時代、第二節を国内市場の基礎を固める時代、第三節を海外の開拓期、第四節を欧米の業者と同じ土俵の上で対等に競いあう時代とし、そして最後の第五節には世界を制覇しようという遠大な計画であった。塚本氏は、こうした大きなビジョンを掲げ、時どきの目標を示しながら、「毎日が創業」の思いで、一日一日、着々と事業を進めてきたという。


 近年の日本の産業界は、一部にベンチャー企業が生まれてきてはいるものの、企業家精神の衰弱が指摘されている。また、過去の成功体験や横並び体質から抜け出せず、これまでと同じような発想や、やり方に終始しているといった例も少なくない。


 だが、このままでは将来の発展はおぼつかない。今、大切なのは、何よりも未知の分野に果敢に挑戦していくベンチャー精神であり、変化に挑戦し、新しい事業を創造していく気概であろう。経営環境がどう変わろうと、企業経営に携わる者は、つねに企業家精神をもって刻々にこれに対処し、変化のなかに潜んでいる新しいビジネスチャンスを見いだして、新たなものを創造していかなければならない。企業を支えるのは、刻々の変化をビジネスチャンスに変える積極的な発想と行動である。

 

だれにも負けない情熱と的確な戦略を

 では、それはどこから生まれてくるのか。根本になるのは、やはり経営者の事業に対する強い思いであろう。“何としてでもこれをやりたい”“こんなものをつくって、こんなサービスをして、たくさんの人に喜んでもらいたい”という燃えるような情熱が画期的なビジネスの仕組みなり商品、サービスを生み、企業を発展に導くのである。


 技術革新が激しく、経営革新が求められている今日は、見方によっては新しいビジネスの種がいたるところに転がっているということもできる。また、新しい事業を興す絶好の機会であり、厳しい経営環境を逆手にとって大胆に企業体質を変革させるまたとないチャンスとも考えられる。このチャンスを生かせるかどうか。それは経営者が、今こそチャンスなりという積極的な見方に立って、だれにも負けない情熱と的確な戦略をもって事業に打ち込むかどうかにかかっている。その意味で、今、企業の消長は、経営者の企業家精神とあふれんばかりの意欲に委ねられているのである。


◆『部下のやる気に火をつける! リーダーの心得ハンドブック』から一部抜粋、編集
 

筆者

佐藤悌二郎(PHP研究所専務取締役)
 

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