富山の地で「幸せをかなえるデザイン注文住宅」を手がける正栄産業。住む人のライフスタイルを考えた家づくりを徹底していると評判の会社だ。

1970年生まれの森藤正浩さん(「松下幸之助経営塾」塾生)が26歳のとき創業した。一見都会的でスマートな印象を与える経営者だが、丁稚同然の厳しい修業を乗り越え、たったひとりで会社を起こして成長に導いた、たいへんな努力家である。現在は飲食や介護の事業にまで手を広げる一方、将来は地域の人に「あってよかった」と言われる会社になることが夢だという。

 

富山に新風を巻き起こした「SHOEIの家」(3)からの続き

 

志を立てる

他業態進出が本業の強化に

二〇〇三年、正栄産業は飲食事業に進出。「とりでん」(釜飯と串焼きが特徴の居酒屋チェーン)のフランチャイズ店を富山市内にオープンした。建築の会社がなぜ飲食業を始めたのか。「店舗の改装を研究するために、自分たちで飲食店をやろうと思いました。一般住宅のほか、店舗リニューアルの工事も受注し始めていましたから」。
 
たんなる多角化ではなく、本業である建築事業を強化するため飲食店の経営に乗り出したということだ。その後も、地酒とそばの店、ダイニングカフェなどを次々とオープン。続いて家具インテリア販売のアクタスと提携し、ショップを開店した。この場合も、本業の家づくりと関連していることはいうまでもない。
 
先に触れた介護事業は、二〇一二年にスタートした。施設を建てるという意味ではこれも本業にかかわっているが、むしろ森藤さんの身近な経験から介護事業に進出したという。数年前に父を亡くし、母がひとり残った。母は元気とはいえ、森藤さんはこの現実を前にして、お年寄りが幸せに暮らせるようなサービスの必要性を痛感する。手がけた高齢者住宅には、かつて家を建てた顧客家族のおばあさんが早速、入居してくれたという。
 
この顧客家族の例のように、他業態に進出する理由として、「一戸建てを建ててくださったお客様と末永く接点を持ちたい」という森藤さんの思いもある。家を建てている最中は、顧客と何度も顔を合わせてコミュニケーションを深められる。しかし、いったん建ててしまうと、どうしても疎遠になる。顧客とつながりを持ち続ける方法はないか。
 
飲食店なら、家を建てたあとも気軽に利用してもらえるし、インテリアショップは新築を建てた顧客が高い率で訪れてくれる。そして介護は、顧客が一生を終えるまで接点を持てる事業だ。
 

「あってよかった」と言われる会社に

今年四十五歳を迎える森藤さんは、事業承継について真剣に考え始めている。「これからの正栄産業を考えたら、飲食などの事業部は独立させ、分社化していったほうがいいでしょうね」。介護事業は最初から子会社化したほうが得策と考え、正栄産業とは別会社の正栄ウェルフェアを立ち上げていた。分社化のいいケーススタディーになっていると話す。
 
住宅をはじめ、飲食、インテリア、介護――現在の「SHOEIグループ」の四本柱だ。今後、これらをどう展開していくのか。
 
「当社の経営ビジョンは『楽しい生活文化を生み出すエンジンになろう!』です。最も収益の大きい住宅建設を中心に、各事業が一体となって当社を発展させていきたい。そして、さまざまな生活シーンで地域に貢献できる、『あってよかった』と言われる会社になりたいですね」
 
それぞれの事業がシナジーを生みながら、地域住民の暮らしを支える会社をめざす。富山という地方都市で、建築とリンクした比類のない会社を築く挑戦は、これからも続く。
 
(おわり)
 
◆『PHP松下幸之助塾』2015.3-4より
 
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