トヨタ自動車の高級車レクサスの販売でこの10年間、最上位の業績をあげているレクサス星が丘。創業者の山口春三さん率いるキリックスグループ7社のうち、今年1月に三男の山口峰伺さん(「松下幸之助経営塾」塾生)が社長に就任したネッツトヨタ東名古屋が運営している。同グループは、日本のモータリゼーションの黎明期である1960年代から、自動車関連事業に新しい風を吹き込んできた。両氏への直接取材をもとにその強さの秘密を探る。


「最高のおもてなし」は“本物の心”から(2) からのつづき
 

<使命に生きる>
「キング・オブ・レクサス」を生んだ顧客目線の徹底――part3

他店と一線を画すレクサス星が丘

二〇〇五(平成十七)年に日本国内でレクサスがブランド展開されることになった際、キリックスグループも応募に名乗りをあげた。ところが、店舗に適した土地がなかなか見つからない。困っていると、春三さんいわく「神懸かりが起きた」という。


「応募締め切りの二日前、家内と一緒に星ヶ丘の三越に買い物に行ったら、すぐそばの土地が空いているのを発見したんです。『ここだ!』とひらめいて地主を確認したところ、たまたま私の知り合いでした。店舗に使うことを快諾してもらい、トヨタ自動車のレクサス担当重役にも許しを得たのです」


ロケーションのよさだけではない。ショールームの二階にもスロープで車を運ぶことができる、理想的な斜面の地形だったのである。


レクサス星が丘は同年八月三十一日に開店した。春三さんとともに運営を担ったのは、三男の山口峰伺さん。富士通などの勤務をへて、一九九六(平成八)年からキリックスグループ各社に勤務してきた。キリックスリースの社長を務めたあと、今年一月、ネッツトヨタ東名古屋の社長に就任した。


レクサス星が丘では当初から他のレクサス店との差別化を図るため、「最高のおもてなし」を追求することが目標に定められたという。

 

店舗については、高級なしつらえにこだわるのはもちろんのこと、細かいところにも気を配った。例えば、壁にかける絵は本物、トイレの一輪挿しは造花でなく、常にいきいきとした生花だ。二階はホールに早変わりして、コンサートを開くこともできる。これまで歌手のジュディ・オングさん、ジャズ奏者の日野皓正さんといった一流ミュージシャンを招いてライブを行ない、お客を無料招待している。


従業員のおもてなしも徹底している。今や有名となった警備員。ホテルのドアマンのような服装で、来客のみならず、前の道路を通るすべてのレクサス車に深々とお辞儀をする。コンシェルジュは、お客の要望や質問には絶対に「わかりません」「知りません」「できません」「ありません」と答えず、適切な対応を行なう。


サービスの充実度も高い。レクサス購入者は駐車場を無料利用でき、希望すれば洗車も無料でしてくれる。また、三十分車検を実施(一九九八〔平成十〕年に始めた「キリンのハイパー車検30」)。文字通り車検を三十分で済ませる。部品交換も必要最小限に抑えるため費用は安い。あまりに早くて安いので、「きちんとやっているのか」と、誤解のクレームがくることすらあるという。自動車整備を得意としてきたキリックスグループならではの質の高いサービスだ。


他にも紹介しきれないほどの「最高のおもてなし」がある。ただ、今のようなおもてなしのレベルに到達するには、それなりの苦労があったと峰伺さんは打ち明ける。


「開店するにあたり優秀なスタッフをそろえました。ところが、一人ひとりが優秀でも、うまくいくとはかぎらないのです。皆、自信があるだけに、おのおののやり方でやろうとしてしまう。自動車の販売や各種のサービスについては、複数の人間がうまく役割分担し、相互に連携プレーを行なうことが大切なのです。その部分が、スタート時においてはやや足りませんでした。チームワークを高めることが必要でしたね」


自動車販売には営業担当者間の成果の競い合いというイメージがあるが、キリックスグループでは以前から、個人単位よりもチーム単位での評価を重視してきた。そのほうが従業員全体の士気も質も向上する。

もちろん、富裕層の顧客が多いレクサス店では、従業員の個々の力も求められる。教養を高めるため、一流の絵画やオペラ・バレエなどを鑑賞したり、特に女性は開業以来毎年欠かさず小笠原流礼法の指導を受けたりしている。その一方で、「最高のおもてなし」を維持するからには、人が見ていないところでもきちんとした姿勢でいる「いい意味での緊張感」を持たせるようにしていると、峰伺さんは述べる。

 

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レクサス星が丘は2階建ての大型店舗。酸素バーやゴルフ練習場なども設置されている(左)

警備員の早川正延さん。メディアの注目を集めたレクサス車へのお辞儀は、みずから率先して始めたという(右)

 

 

不易流行の精神で

新社長の峰伺さんにとって第一の課題は「伝承」。「創業者(春三さん)の精神をいかに継承し、次代にどう伝えるか」について、考えることがよくあるという。また、直近の具体的な課題として「若手の育成」を挙げる。


「若い社員をいかに即戦力として育てていくかが課題です。現場での研修をやってはいるものの、高いレベルの人材に育てるには時間がかかります。近年の若者は性格がいい半面、仕事をする上での貪欲さがあまり感じられない傾向がある。もっと向上心をかきたてて、一つひとつの業務に貪欲に取り組む姿勢を身につけてほしいものです」


こうした峰伺さんの課題に対して、春三さんは“本物の心”を育成することの大切さを強調する。それは、「誠心、誠意、誠実」という三つの誠に集約され、キリックスグループの社訓とされている。そして、人間の基軸となる倫理観を「信、義、誠、仁、忠、勇、礼、恥」という八徳の語で表している。


これらは実践されなければ意味がない。社訓や行動指針などは「人づくり指針」と題したカードにまとめられ、朝礼で唱和するのはもちろん、各人が行動指針にもとづく取り組みを発表し、それについて店長がコメントを述べたりしている。また教育研修の場では、経営理念の他キリックスグループのメンバーとして身につけておくべきこと、知っておくべきことを詳細に記した「キリックスWay」を活用している。さらにレクサス星が丘のスタッフ向けに、その特別版があるそうだ。


レクサス星が丘も開店から十年が経過した。非常に質の高いサービスを維持しているだけあってか、いまだに視察に訪れる人が「月に三〇組ぐらい」(峰伺さん)もあるほど、注目を浴び続けている。しかし、同店をはじめキリックスグループ全体の持続的発展のためには、いっそうの努力が必要だと峰伺さんは強調する。


「不易流行の精神が大事だと思っています。守るべきものは守る。創業者の言う“本物の心”を育てていくため、従業員の人間修養にはこれからも真剣に取り組んでいかなければなりません。その一方で、常にブラッシュアップしていく姿勢が求められています。お客様の目線に立って、さらにいいサービスを追求していきます」


キリックス(KIRIX)というグループ名の由来は、とても誠実な動物といわれるキリンと、無限にもなりうる未知数を表す「X」とを組み合わせたものだという。キリンが具象する誠、つまり春三さんが唱える“本物の心”をグループ内に無限大に広げるべく、峰伺さんの挑戦はこれからも続く。

 

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「キリックス」の由来であるキリンは誠実さの象徴であるとし、各店舗に大型の像を設置している

(名古屋市瑞穂区の田辺通店で)

(おわり)

 

経営セミナー 松下幸之助経営塾

 



◆『衆知』2016.5-6より

衆知2016.5-6

 

DATA

キリックスグループ

[社主]山口春三(しゅんぞう)
従業員...約1,000名
資本金...4億5,000万円
グループ会社...キリックスリース(株)、(株)名豊トヨペットサービス、(株)名豊保険、名豊通商(株)、(株)名豊本社、ネッツトヨタ東名古屋(株)、(株)キリンダム

ネッツトヨタ東名古屋株式会社

[会長]山口茂樹
[社長]山口峰伺(みねし)
〒460-0006
名古屋市中区葵1丁目27番29号
TEL 052-935-6111(代表)
事業内容...トヨタ車・レクサス車・フォルクスワーゲン車の販売および整備、保険代理業