昭和五十六年三月十七日、テレビ朝日の「溝口モーニングショー」で、幸之助は珍しく妻むめのについて語っている。

 

 ――奥様のお年は。
 幸之助 八十四歳。
 ――朝起きてから寝られるまで非常にお忙しい毎日ですが、奥様孝行は?
 幸之助 してませんな。(笑)
 ――どこか旅行へ連れていくとか......。
 幸之助 結婚してこのかた年に一回もないです。
 ――奥様よく我慢されますね。
 幸之助 仕事が忙しいので、我慢したというより、そういう環境ですからね。仕事に多少余裕ができたらどこかへ行こうという申しあわせはしたことあるけどね。そうなったらそうなったで、また別の仕事してる。まあうちの家内も仕事が好きでね。特に創業当時は帳簿もつけたりして、家内も忙しかった。共稼ぎですから......。


 ――今の松下をつくりあげられたのは、松下さんが半分、奥様が半分とお考えですか。
 幸之助 そうですね。うちは家内のほうが強いから。家内は六割が自分の働きだと思ってます。
 ――六割ですか。むしろ奥さんのほうが実績をあげたと?
 幸之助 まあそういう心持ちですね。
 ――奥さんには頭が上がりませんか。
 幸之助 上がらんこともないけどもね。交渉ごとは、私より家内のほうが強いですよ。むずかしい交渉は、「あんた行ってくれ」とね。そのほうがうまくいく。お得意先へ行っても弁がたつし、商売もうまいですよ。


 ――夫婦喧嘩はされますか。
 幸之助 それはしませんな。
 ――やはり商売は夫婦の意見が一致しないとむずかしいですか。よき伴侶といいますか......。
 幸之助 そのとおりですよ。
 ――奥さんと仲が悪いと事業もつぶれますか。
 幸之助 それはまず社員が信用しないですからね。偉そうなこと言ってるけど、夫婦喧嘩してるやないか、とね。やはり社員の信用を得るには夫婦仲です。成功しているところは、みな夫婦仲よくしておられる。私も、新しい取引きを始めるときには、その会社の業績より、経営者の夫婦仲を見ますものね。
 ――なるほど、成功の秘訣は夫婦円満ということですね。