ミキサーの商品試験に幸之助が立ち会ったときの話である。
 担当者が、コップ一杯の水にリンゴ一個を使い、説明書どおりの分量でジュースをつくった。それを試飲したあと、幸之助は、みずから水量を半分にしてジュースをつくり始めた。


 「社長、それは困ります。その水量での実験はやっておりませんし、説明書にも書いておりません。お客様にも説明書どおりでの使用をお願いしています」

 「しかし、きみ、お客様は必ずしも説明書どおりではなく、いろんな方法でお使いになるものだ」

 

 幸之助は、濃いジュースや薄いジュースをつくり、舌触りを確かめてから言った。
 「これなら発売してもええな」