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物の見方・考え方
【文庫版】目次
文庫版発刊にあたって | |
まえがき(旧版) | |
会社経営のカンどころ | 15 |
筋金のはいった商売/会社の大黒柱/体力と知力と経験/無駄な余剰人員/一歩人に先んずる | |
責任の持ち方 | 23 |
社会の公器/大衆を結集させる力/人を動かす法/頭の中にある体験/誤りやすい指導 | |
金だけが目的で仕事はできぬ | 31 |
人間の働き方/働くための意欲/善意と善意の結合/危なげない仕事の進め方 | |
事業に失敗したらどうする!? | 38 |
太陽が行方不明では困る/一万人が二万人に勝つ/こんな自由は無茶だ/安全保障のない利益/利益を生かして使う | |
長期勤続のちから | 47 |
十八年勤続のドイツ人/長期勤続者に金時計/変転極まりない産業界/激しい競争時代/結局は各自の自覚 | |
伸びる会社・伸びる社員 | 56 |
会社の横綱/社会人としての勉強/広い世間からの支持/仰ぐ日の丸/節操ある行動 | |
難局を切り抜ける条件 | 65 |
貧しい国の出血輸出/人間の知恵才覚/成功した四十八の工場/感心した二億円の払い込み法/困難を成功に結ぶ考え方 | |
事志に反す | 74 |
成功の基本条件/失敗をふせぐ法/日本経済の再反省 | |
私の軍師・加藤大観 | 80 |
人生のふしぎな縁/商談の顧問役/薄らいだ信頼/あふれる涙/一生をかけた提案/出船あれば入船あり | |
私のアメリカ土産 | 93 |
好かれるデザイン/万金をおしまぬ国民性/適当な経済速度/若い人の物の考え方 | |
物の見方・考え方 | 101 |
失敗は成功の基か/途方にくれた十一の少年/五銭白銅の感激/一徹な少年の反骨/十四枚の着物/懐かしい奉公先/字の書けぬ事務員/あふれる正義感/車をひく人、車に乗る人/私の水道哲学 | |
何事も結構 | 119 |
家運を興す夢/暗中模索の人生/社長のニックネーム/変らざるもの/床屋の教訓/大衆の心の底にあるもの | |
役に立つ人間 | 127 |
二つの型のお得意さん/人間の本質/社長を使う社員/本当に役に立つ人 | |
暖簾の精神 | 136 |
町人の街・大阪/暖簾分け/宣伝広告の意義/競輪選手の草分け/自転車競走のコツ/独立の心/難儀と苦労 | |
オランダに学ぶ | 146 |
誰でももらえる年金/交通事故のない国/国民尊敬の的/つぶれかけた工場/人生のおもしろさ/感謝の心のほとばしり | |
心の持ち方 | 156 |
正直な報道/一万回で初段/カレーライスの昼食会/善悪の調和/素直な心と精神調和 | |
私の学校教育論 | 165 |
バランスのとれた学校教育/野放しの学校企業/繁栄の軌道/世界の隅々に及ぶ航空路/横たわる無限の仕事 | |
お金のかからぬアメリカ | 173 |
世界一のターミナル・ビル/経済活動に有利な武器/能率の上がるサービス会社/下請け工場の役割 | |
経営についての考え方 | 179 |
筋金入りの経営/夢と希望の生み出す力/天命を待つ/尊い先輩の言葉/才能をのばす習性/鍛えられる名刀 | |
日本の経営者、アメリカの経営者 | 189 |
経営を指導する会社/G・Eにみる堅実経営/日本の経営者、アメリカの経営者/日本産業の五つの不利益/国際競争にうち勝つ法/官僚政治の欠かん/政治の生産性 | |
功ある人には禄を与える | 200 |
後継者の養成/大西郷の遺訓/仕事のタイミング | |
人多くして人なし | 207 |
思いあたる先輩の言葉/境遇にしたがう/大事にあたる人生体験/矢面に立つ精神/個人の財・国の財 | |
「運」について考える | 215 |
恵まれた人々/運の強さを知る/運をいうことは非科学的か/自分の運を伸ばそう |
まえがき
文庫版発刊にあたって
私はこれまで、「松下さん、いろいろ苦労されたでしょうね」と、尋ねられたことがよくある。しかし、いつもいざ改めて何が苦労だったかを考えてみると、どうも思い浮かばない。それは、“時がたてば、嫌な思い出も、懐かしい思い出に変わる”と言われているような、そんな類のことなのかもしれない。けれども、これまでの歩みを振り返ってみると、ただそれだけではないような気もする。困難にぶつかって一時的に悩んでも、すぐに見方や考え方を変え、禍転じて福となしてきた面が少なからずあったように思う。だから、苦労が苦労ではなくなったのではなかったか。
世の中とは面白いもので、一見マイナスと見えることにも、それなりのプラスがある。それが実際の姿だと思う。私の場合でいえば、家が貧しくて、満九歳のとき丁稚奉公に出されたけれど、そのおかげで、商人としての躾を受けることができたし、人情の機微をも知ることができた。生来、身体が弱かったので、人に頼んで仕事をしてもらうことを覚えた。学問がなかったので、常に誰にでも謙虚に教えを乞うことができた……。
すべての物事があわせ持つプラスの面とマイナスの面。そのプラスの面に目を向けて、自らの幸せ、社会の発展につながるよう努めていく。そうすれば、苦労や悩みが消えて、ことごとく、自分の人生の糧、社会の発展の糧となる姿も生まれてこよう。そのような考え方に立てば、本来、苦労や悩みなどはない、本来、ないものがあるのは、自分が何かにとらわれた考え方をしているからだということなのかもしれない。私が、これまで、何にもとらわれない素直な心になろう、と願い、努めてきた理由もここにある。
本書は、そうした私流の物の見方、考え方をおりにふれつづったものである。昭和三十八年、実業之日本社から出版していただいたものであるが、思いのほか多くの方々にお読みいただき、その年のベストセラーにもあげられた。そういう意味でも思い出が深い。本書が、人生をより良く生きる上で、社会をより良く発展させていく上で、何らかの参考になれば幸いである。
昭和六十一年三月
松下幸之助
まえがき(旧版)
前に私は、各方面からのご要望もあって、実業之日本社から『仕事の夢 暮しの夢』という一書を出版していただいた。幸いこれは世間の非常なご愛読をいただいて、私としては思わぬ喜びであった。
ところで、この書の出版後も、「実業の日本」誌上に、毎号、処世雑感という範囲で、その時々の所感を連載してきたのであるが、これがある程度たまったので、このたびまた一本にまとめてはというおすすめをいただいた。言ってみれば、前書の姉妹篇のようなものである。
そこで改めて、読みかえしてみると、前書とはまた多少違った内容を、違った角度から述べているものも多く、これはこれなりに意義があるかとも考えて、『物の見方 考え方』という書名で出していただくことを承諾したのである。
もちろん、これらは折々の感懐であって、その時にはふさわしいことであっても、今になってみれば、多少そぐわないというものもあるかもしれない。しかし、このなかに流れている私の所信というものは、やはり一貫して変らないところがあるように思う。
その意味で、この書の各篇から、物の見方・考え方というものについて、いささかでもお汲みとりいただき、ご参考に供することがあれば、これは私としては非常な喜びである。
秀麗な富士の山も、見る人によって、さまざまの姿を映し出す。これをよしと見る人もあれば、悪しと見る人もあろう。見ている分ではそれでいいかもしれない。しかし日々の暮しのなかにあっては、物の受けとり方如何によって吉凶禍福、さまざまの具体的な結果が刻々に招来されてくるのである。物の見方・考え方が一番大事な所以である。
本書についても、各位のご賛同を得る面もあれば、あるいはご叱正をいただく面もあるかもしれない。忌憚ないご批判を賜わりたいと思う。
なお、本書の出版については、尾崎八十助氏、小山田志郎氏にいろいろお世話をいただいた。ここに厚くお礼を申し上げる次第である。
昭和三十八年三月
京都・真々庵にて
松下幸之助