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著作から見た松下幸之助の世界

経営の価値 人生の妙味

cover cover  
昭和61年
『経営の価値 人生の妙味』に改題
PHP研究所 刊
文庫判
244ページ
昭和38年
『みんなで考えよう』
実業之日本社 刊
新書判
252ページ

 

戦後約20年の当時、転機に立つわが国について、お互いみんなで考え合い、日本人本来のすぐれた特質と伝統を生かしていこうと提言した書。

 

PHP Interface PHP研究所

【文庫版】目次 ─ 『経営の価値 人生の妙味』 ─

文庫版発刊にあたって
みんなで考えよう(旧版)
新・経営価値論13
経営の良否は社長の責任/経営の価値を高く評価しよう/経営弱体の原因/技術に匹敵する経営価値/経営指導料は当然/経営者の尊厳を高めよ/経済国難に直面する日本/過当競争は戒めよう/自力で立ち上がろう/人心の動きを把握する/信念に徹す/国民の団結が解決のカギ/甘い考えは捨てよ/民主主義は金と時間のかからぬもの/適所適材が立ちやすい/二十八歳の青年技師長/民主主義の二重生活/愛国心を持とう/大人よ、気迫を持て
事業成功の心がけ51
黒字倒産が教えるもの/金融引き締めの原因/所得倍増論について/貿易の自由化は必要/経済界の現実/貿易自由化に対処する方法/少量生産でコスト・ダウン/現実は厳しい/みずからの分限を知る/自力の測定を誤るな/素直に判断する/銀行の信頼を得る/誠意は通ずる/金を借りる態度/すべては己れにある〇質疑応答──海外も国内も商売の道は一緒である/60%やれそうなら任せてみよう/値下げを要求されて利益がふえた話/人間の心は60%しかわからない/正しい道を踏めば天下が認めてくれる
海外進出のカギ105
初志を得るために/かけ足と速足/並足が一番/ぬれ手でアワは許されない/私の経営信念/影響の良否が重要/経営の本旨/自社の株を買おう/真の生き甲斐/仕事に命を賭す/限りなき前進〇質疑応答──まず国内を満たしてから海外へ輸出を/経営の衝にあたる人物が経営を左右する/各自が“社員稼業”に徹することがまず大切
自問自答の日々139
商売のコツ/基本線からそれるな/あすの心構え/向上は義務/社会人の責任/自問自答せよ/産業人の喜び/それではおそすぎる/ボーイのポイント/発展を支えるもの/ドイツに学ぶ/眼を広く世界に/今日の成果に酔いしれるな
運と人生163
恵まれた人びと/しあわせとは/運をつかむ/信念の基礎/所信をつらぬく/天性は異なる/他人の他人を愛す/キリストに学ぶ/国を愛そう/自己中心を捨てよう/日本の再建を助けたもの/今後何をなすべきか/義務を自覚しよう/民主主義とは/成功への道/誠意を持とう/運の強さを意識せよ
十年ぶりのアメリカ193
十年ぶりのアメリカ/二千人の盛宴/八時間半の夜会/成功をかちとる年齢/意外なアメリカ/考えさせられる傷害保険/一切が平等/リンゴもバナナも/思いやりの精神/真の人権尊重/国民を支える二つのもの/伝統の持つゆかしさ/お茶のつぎ方/すぐれた日本人の素質/学ぶ意義
しあわせへの一つの道223
大きな喜び/仕事の意義/社会人としての心がけ/心に潤いを/人づくりの意義/公徳心の涵養/豊かな心/ほんとうの尊さ

まえがき

文庫版発刊にあたって

 本書は、昭和三十八年、その頃に私が行なった講演の中から七編を選び、実業之日本社から『みんなで考えよう』と題して出版していただいたものである。
 当時、池田内閣の所得倍増のかけ声と貿易自由化の波は、企業の目を大量生産によるコストダウンに向かわせ、設備投資を促して日本経済は活況を呈していた。が、その内側で、信用膨張や安易な経営など、さまざまなひずみが生じつつあった。
 そうしたひずみが、その後三十九年、四十年の不況を招き企業の倒産旋風をまき起こすことになったのであるが、三十年代の後半は、たしかに、いわば戦後の復興期が終り、新しい時代への転換期であったといえよう。
 それから二十年、二十一世紀を目前にひかえ、わが国はいま再び、一つの転換期を迎えているように思われる。
 経済の面においては世界の総生産の一〇%を占めるまでの発展を遂げたけれども、その一方で円高やそれに伴う経済停滞、財政危機、さらには国際摩擦といった、かつて経験したことのない問題に直面し、その解決を迫られている。そうした状況は、わが国が今日、単なる経済大国から、真に他国から信頼される国際国家への転換をはかっていかなければならないことを示しているのではなかろうか。
 もとより二十年前と今日とでは、その環境はずいぶん違っているが、同じ一つの転換期にあるという意味で、私が当時考えていたことが、現在にも何らかの参考になればと願っている。
 なお、文庫版の発刊にあたり、表題を『経営の価値 人生の妙味』と改めたことをお断わりしておきたい。

  

昭和六十一年九月
松下幸之助

みんなで考えよう(旧版)

 私はもともと、講演ということはあまり好まず、また時間の余裕もないので、極力辞退するようにつとめているのだけれども、中には、やむを得ずお引き受けしなければならないこともあった。それらの講演をパンフレットにでもまとめてみてはどうか、という強いおすすめを、いろいろな方からいただくようになり、過日、これらの話を小冊子にまとめ、一部の方がたのご高覧に供したところ、思いもかけず、ご親切なご感想や、おほめのことばなどをいただいて、恐縮もし、また、うれしく感じたのであった。
 ところが先日、実業之日本社から、これを出版しないかとのお誘いを受けたのである。私としては、最初から、本にしようという気持ちはなかったので、いささか迷ったのだが、これを出版することによって、より多くの方がたから、私の考え方をご批判、ご叱正いただければと思い、ここに七編を選んで、一冊の本にまとめてみた。
 これらはいずれも、私のささやかな体験をお話ししたものであるため、おのずと私の人生観、事業観が中心となり、また、私が経営してきた松下電器というものの話題も少なくない。従って、やや我田引水的なところがあるかもしれないが、引例という点から、あらかじめお許しを乞いたいと思う。
 さらに七編のうちには、その内容に多少の重複があるが、私の話をお聴きいただいた方がたが、いろいろの階層にわたっているため、これはこれなりに、一つの意義があろうかとも考えている。
 戦後十八年を経た今日のわが国は、一面、たしかに眼を見張らせる繁栄ぶりを示してはいるが、その内部には、実にさまざまな問題が内蔵されているのではなかろうか。
 私はそれぞれの講演において、これらの問題点にふれながら、日ごろ感じるままを率直に申しあげてきたのである。
 現在のわが国は、いわば一つの転機に立っているといえよう。戦後の復興期はすでに終り、わが国はいま、新しい時代に向かって、大きく飛躍しようとしている。
 われわれは、この際、みずからの力で、みずからの国を、立派に育てあげてゆかなければならないのである。そのためにも、われわれはここで、改めてお互いの人生をふりかえり、ややもすれば忘れられがちになる、日本人本来のすぐれた素質と伝統を正しく認識し、そして、お互いが力をあわせねばならないと思うのである。
 このような意味から、この本の題名も『みんなで考えよう』ということにさせてもらった。お目通しの上、ご高評、ご叱正を賜わらば、まことにしあわせである。

  

昭和三十八年八月
京都・真々庵にて
松下幸之助

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