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人事万華鏡
【文庫版】目次
文庫版発刊にあたって | |||
まえがき(旧版) | |||
人を使う | 15 | ||
人を使うのは公事 | 17 | ||
心配引き受け係 | 23 | ||
人を得るのは運命 | 28 | ||
苦を使う | 34 | ||
最高の熱意を | 40 | ||
慈悲の心 | 46 | ||
人を動かす | 53 | ||
ガラス張りの経営 | 55 | ||
率先垂範の心意気 | 61 | ||
正しい意志決定のために | 67 | ||
人格と手腕 | 73 | ||
欠点を知ってもらう | 79 | ||
愚痴のいえる相手を | 84 | ||
人を育てる | 91 | ||
社長はお茶くみ業 | 93 | ||
塩のからさを教える | 99 | ||
耳を傾ける | 105 | ||
寛厳よろしく | 111 | ||
ものを覚えない | 117 | ||
社会人の育成 | 122 | ||
人を生かす | 127 | ||
運の強い人弱い人 | 129 | ||
長所を見る | 135 | ||
人の組み合わせ | 140 | ||
上の人を使う | 146 | ||
権威を認める | 152 | ||
年功序列と抜擢 | 157 | ||
人間というもの | 163 | ||
まず人間を知って | 165 | ||
人間の可能性は無限 | 167 | ||
二十歳の出張所長 | 174 | ||
給料と経営理念 | 177 | ||
思い切って人を使う | 180 | ||
適材適所を生むために | 184 | ||
衆知を集めつつ | 187 |
まえがき
文庫版発刊にあたって
この地球上に五十億もの人がいて、その一人ひとりのもっている目も、鼻も、口も、大きさにそれほどの違いはない。しかも、皆だいたい同じところについている。それが人間というものであるけれど、誰一人として全く同じ顔の人はいないのである。いや、顔だけではない。もって生まれた性格も、持ち味も、考え方も、一人ひとり異なり、その上、心は刻々に変化している。そうした妙味つきない人間同士が共同生活を営んでいるのが企業であり、この社会である。
私は長年事業にたずさわり、人を使う立場にあって、人の姿や心のおもしろさを味わいつつ、人を育て生かすことを心がけてきたが、考えてみると、同時に自分が部下の人たちによって育てられ生かされてきたともいえるように思うのである。結局、企業もこの世の中も、お互いの生かしあいで成り立っていくのであろう。
本書は、もともと昭和五十二年、人を使う立場にある方々に何らかのご参考になればと考えまとめたものであるが、文庫版発刊にあたり、さらに広くお読みいただき、仕事の上だけではなくお互いの人間関係や人生を考える上で、いささかなりともお役に立てればと願っている。ご高評いただければ幸いである。
昭和六十三年五月
松下幸之助
まえがき(旧版)
「事業は人なり」ということがよくいわれる。これはお互いの事業体験からいっても、まったくその通りだと思う。事業は人を中心として発展していくものであり、その成否は適切な人を得るかどうかにかかっているといってもいいだろう。
どんなにそれが伝統のある会社であり、またいい内容を持つ事業であっても、その伝統をになうべき適切な人を求めることができないというのでは、だんだんと衰微していってしまうだろう。だからどこの会社でもいわゆる人づくりということを非常に大事なことと考え、人を求め、人を育て、人を生かすことにつとめるということになってくる。そしてそういうことに成功するところほど、業績を伸ばし、隆々と発展していると思う。
ところで、その人というものは一面まことに複雑微妙というか、なかなかむずかしい面を持っているものである。人間は一人ひとりみなちがっているし、同じ人でもその心というものは刻々動いており、いわば千変万化といった様相を呈する。数学であれば一たす一は二になるが、人間の心はそうはいかない。三になったり五になったりすることもあるかわりに、ゼロになったり、マイナスになったりもする。まことに人間ほどむずかしいものはないということが一面に考えられるのである。
しかしまた見方を変えれば、そのように千変万化するところに人間というもの、人の心というものの妙味というか面白さがあるともいえよう。機械であれば、スイッチを入れれば定められた通りの働きをするが、それ以上のことはしない。しかし、いかようにも変化する心を持った人間だから、やり方しだい、考え方しだいで、その持てる力をいくらでも引き出し、発揮させることもできる。そこに人を育て、人を生かしていく妙味があるわけである。
私自身、今日まで六十年近くにわたって、ずっと人を使う立場にあって仕事をしてきた。特に私の場合、いろいろなところでのべているように、学問知識も乏しく、また体も弱かったから、いきおい人を使い、人にまかせるという姿で仕事をやってきたわけである。基本の考えなり方針、目標というものは示すけれど、あとはそれぞれの人に仕事をまかせて、その人の自主性においてやってもらう。そうしたことを比較的早い時期からずっと今日までやってきた。
そういう姿が結果としては幸いして、みなの力がのびのびと発揮され、その働きも生きてきて、会社の業績も思いのほかにあがり、まあ、はたから見れば非常な成功の姿と映る面もあるのだと思う。そんなことから「君はなかなか人使いがうまい」などといってくれる人もあるが、もとはといえば、必要に迫られて人に仕事をまかせてきたことが成功に結びついたということである。
そしてまた、人を使うといっても、それは私が創業者であり、ずっと社長とか会長とかいう立場にあったから形の上でそうなったのであって、見方によっては、私の方が使われてきたとも考えられる。社員の人が、うまく私という経営者を使ってくれたから、これだけの成果があがったのだともいえる。
まあ基本的にはそのように私は考えている。しかし、そうはいうものの、六十年近くもそういう立場にあって仕事をしてくれば、それなりに先にのべたような、人間の種々相というか、人心の妙味、面白さも体験、見聞し、そうした中から多少とも人を使い、人を生かすコツといったものもわかってきたようにも思う。本書はそのような、企業経営における“人”の問題について、私自身が体験し、考えてきたことの一端をのべたものである。
もちろん、ここにのべてあることはあくまで私なりのやり方、考え方であって、他の人がその通りにやって、そのままうまくいくというものではないと思う。けれども、それをそれぞれの人の持ち味に即して取捨選択し、咀しゃくしていただくならば、何らかのご参考になるのではないかと考えるしだいである。
昭和五十二年八月
松下幸之助