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著作から見た松下幸之助の世界

松下幸之助 経営語録

松下幸之助 経営語録 松下幸之助 経営語録  
昭和58年
PHP研究所 刊
四六判(190mm×130mm)
192ページ
平成5年
PHP研究所 刊
文庫判
192ページ

 

松下幸之助が折々に語った数々の言葉の中には、経営の真髄を説いたものが少なくない。リーダーたる者、必ず心すべき経営の要諦を、コンパクトに要約。

 

PHP Interface PHP研究所

【文庫版】目次

まえがき
 1空中ブランコの離れわざ 15
 2事業に頂上はない 20
 3笑わば笑えという強さ 25
 4勇気を生み出す方法 30
 5悩みを卒業する 34
 6潔い商売 38
 7すべてわが師 43
 8会社を興す人、つぶす人 47
 9実力を知る 50
10経営にもダムの効用 54
11コツがわかる 59
12槍の名人 63
13知らない強味 67
14“一人一業”をまとめる一業 73
15心配しつつ酒を楽しむ 77
16“粒より”ばかりとは…… 81
17虫が好かなくても 85
18人使いは自然のままが…… 90
19安心感のある社長 94
20直情径行の信賞必罰 98
21文句をいわない上司 102
22社員に対する礼儀 107
23やりたい人にやらせる 111
24昇進に足る人間 115
25権威を持って教える 121
26人を遇する道 125
27車の両輪 130
28仕入れ先はお得意先 136
29空きカン公害の責任 140
30一割ずつの蓄積 144
31かけ足と速足と並み足 149
32信念に支えられた宣伝 154
33貿易の心がまえ 159
34大人のふるまい 166
35常日頃がモノをいう 171
36地震のような不況 176
37自分をつかむ 181
38人間本然主義 186

まえがき

 昨今の私たちの商売、事業経営をとりまく環境には、ことのほかきびしいものがあります。私は、事業を始めてから今日までの六十五年間に、何度となく経済界の不況を経験してきましたが、今日ほどにきびしい状態は、かつてなかったように思います。
 これまでの不況では、たとえば機械が悪ければ繊維がいい、繊維が悪くなれば鉄鋼が盛りかえすといったように、何か救いがありました。また、内需が沈滞気味の時には輸出に活路を見出すといったことも可能でしたし、世界の経済状態も、アメリカが苦しんでいればヨーロッパがうるおっていたり、中近東が活況を呈していたり、とにかくどこかに逃げ道がありました。
 ところが昨今の情勢は、国内はもとより、世界全体に、いいところが一つもありません。アメリカもヨーロッパも中近東も、すべてよくないということで、いわゆる世界同時不況というものが進行しつつあり、その中で日本経済も、財政難や消費の低迷、あるいは貿易摩擦、技術摩擦といった文字どおりの内憂外患に直面しているわけです。
 したがって今日は、むずかしいといえばまことにむずかしい時代です。この先いったいどうなっていくのかという予測もつけにくく、何を頼りに商売をし、どこに指標を求めて経営を進めていったらいいかもわからない。いきおい手さぐりの商売、手さぐりの経営を余儀なくされるという一面があります。
 しかし、それは時代の流れだから仕方がない、と言っていたのでは、いつまでたってもこの状態はかわらないでしょう。そこにはやはり、お互いの発想の転換が必要だと思います。すなわち、将来何が起こるかわからないことは一面の事実であるけれども、将来のことは、われわれお互いがどう行動していくかの結果である。だから、それぞれがこうしようという願い、理想を持ってその実現をはかり、みずから時代を創り出していこうというような積極的な姿勢、見方に立つことが、一方で大切だと思うのです。
 商売、経営においては、たとえどんな困難の中にあっても、責任者に自分がこの困難を乗り越えるのだという強い信念さえあれば、それにふさわしい知恵というものが必ず生まれてくるものです。お互いに、きのうきょう仕事をはじめた素人ではなく、それなりの経験も知恵も持っているわけですから、どんなことがあっても自分自身がやり通すのだという気持ちと、自分なりの生き方、人生観に根ざした信念があれば、それが支えとなって活路は見出せる。そう私は思います。
 もちろん、その過程には、さまざまな困難、心配がつきものです。心配で夜も眠れないということもあれば、脈が結滞するといったことも実際に起きてくるでしょう。けれども、そのようにいろいろと気を煩わし、心配するところにこそ、経営者、責任者としての存在意義があり、生きがい、仕事のしがいがある。そう考えて、自分で自分を励ましつつ難関に挑んでいくといったことが、これからの経営者、責任者には、とりわけ強く求められるのではないでしょうか。
 本書は、私自身がこれまで、経営者としての使命感にもとづいて、たえずみずからを奮い立たせつつ取り組んできた事業体験、経営体験の一端を、昨今のきびしい状勢に自分がどう対処すべきかを考え、反省する意味をもこめてまとめたものです。文意つたなく、また意を尽くし得ていない箇所も少なくないと思いますが、ともかくも一経営者として自分なりに全身全霊を経営に打ち込んできた私の体験が、よりよき商売、経営の実現めざして日々励んでおられるみなさまに、いささかなりともお役立ていただけるならばと願っている次第です。

  

昭和五十八年二月
松下幸之助

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