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なぜ
昭和40年 四六判(190mm×130mm) 232ページ 文藝春秋 刊 |
昭和51年 文庫判 256ページ 文藝春秋 刊 |
【文庫版】目次
はじめに | |
なぜ(まえがきに代えて) | |
繁栄のための算術 | |
「ホステス百万」で考えたこと | 13 |
大いに儲けるべし、しかし | 30 |
吉原遊廓と人間性 | 42 |
“信賞必罰大学”のすすめ | 53 |
権威と民主主義 | 65 |
私製紙幣と経済危機 | 74 |
このごろ思うこと | |
こどもを躾ける | 85 |
三つの「生徒守則」 | 89 |
自らを評価する | 104 |
手さぐりの人生 | 112 |
青年への私のねがい | 118 |
命をかけた真剣さ | 125 |
徳育は人間の尊厳を教える | 132 |
習慣が人をつくる | 139 |
「安かろう良かろう」の教育を | 146 |
わが日本一の借金王時代 | 153 |
ダム経営と適正経営 | 175 |
現代三方一両損 | 215 |
戦後三十年に思う | 225 |
八十の手習い(あとがきに代えて) | 245 |
まえがき
はじめに
戦後二十年といわれた昭和四十年ごろ、私は当時の日本の社会情勢をみて、いくつかの“なぜ”という疑問を感じた。そうした疑問と、それに対する私なりの考えを、文藝春秋社の要請により一冊の本として刊行したところ、予想外の好評を得て今日まで版を重ねてきた。
その内容は十年あまり前に書いたものではあるが、いま読み返してみると、そのまま今日にも通じるものがあるように思われる。したがって今回発行元の求めにより、文春文庫の一冊として刊行するにあたっては、旧稿はそのままにし、あわせて新たに最近の所懐の一端をのべた三編をつけ加えることにしたしだいである。
お読みいただき、ご高評を賜わらば幸いである。
昭和五十一年三月
松下幸之助
なぜ——まえがきに代えて
「なぜ」という書名は、一見まことに奇妙なようにも思われる。しかしこの“なぜ”という問いかけは、現在のお互い日本人に課せられた大きな宿題であるように私は思う。
戦後二十年、わが国はたしかに世界でもマレな復興発展ぶりを見せ、一応は繁栄への過程を歩んできた。そのかぎりにおいては、まことに頼もしいと言えるけれども、しかしこれをただ手放しで喜んでいていいものかどうか。今までの急速な発展のそのカゲには、社会全体としても、また個々人の生活内容についてみても、充分な反省検討がなされないままに放置されている問題が数多くあるように思うのである。つまり、それらが深く検討されないままに、ドンドンとカケ足で今まで歩んできたわけで、復興の過程においては、それもまたやむを得なかったと言えるかも知れない。
しかし、そのトガメが今日に至って、ようやく社会の大きなヒズミとなってあらわれてきているようで、今にして社会的にも個人的にも大きな反省検討を加えなければ、今までの繁栄も所詮は砂上の楼閣にすぎなくなってしまうのではないかと案じられるのである。
すなわち、政治の面でも経済の面でも、また教育をはじめとする精神的な面においても、物心両面のすべてにわたって、お互いに“なぜ”という問いかえしをしなければならない時が来ているように思うのである。これは先ほども述べたように、今日の日本国民に課せられた大きな宿題であるように思う。
この宿題を解くために、私も国民の一人として、この書において及ばずながらあれこれと考えてきたわけであるが、もちろん私は一介の電器屋にすぎず、むずかしい学理も哲学もわからない。ただささやかな自分の体験を通して、日々に移り変わる世と人の動きにもまれながら、自分なりの人生観、処世観、事業観にもとづいて考え及ぶところを述べているにすぎない。従ってそこには不備な点も多々あることとは思うけれども、ともかく本書を一貫しているのは、私なりの“なぜ”という問いと、それに対する私なりの一応の答えである。
果して的確な答えが出ているかどうか心もとないけれども、みんなで考えるという意味において、問題の提起として役立つことがあればまことに幸せである。
本書の第一部は、先に文藝春秋誌上に“繁栄のための算術”と題して、六回にわたって寄稿したものである。
第二部は、最近の私の所感のなかから選ばれたものであるが、ここには文藝春秋四月号に寄稿した戦後の私の自伝も加えた。なおこの第二部のうち二編は、私の別著とその内容がいささか重複しているが、今日の時代における重要な問題として、さらに認識を新たにしたいという文藝春秋新社の強ってのねがいによって、あえて収載することにした。あらかじめおゆるしをねがいたい。
第三部(ダム経営と適正経営)は、本年一月に、生産性本部主催の倉敷セミナーで講演した内容を、若干補筆してまとめた。
ご叱正を賜わらばまことに幸甚である。
昭和四十年四月
松下幸之助