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かえりみて明日を思う
目次
まえがき | |
観光立国の弁 | 11 |
素晴らしきかなニッポン/観光予算の見とおし/世界平和は観光より | |
借りものの繁栄 | 23 |
地方分散の必要性/なぜ経営者は踊ったか/平均寿命二十年の延び/自主独立の精神を/愛するということ/おとながしっかりせよ/ほんとうの民主主義を | |
まず人心の開発から | 53 |
人間は尊重されているか/まず心を開発して/日本人と民主主義 | |
“置州簡県”断行のとき | 73 |
人口分散こそ急務である/中央集権から地方分権へ | |
日本を見直す | 85 |
物価についての考え方/物価問題の問題とは/日本みずからを知れ/日本人はえらい国民/日本も世界も良くなるために | |
七十年代日本の道 | 115 |
変化の中の日本/経営者が考えるべきとき/余力をもって奉仕すべき日本 | |
美しい日本への決意を | 137 |
瀬戸内海をつくったなら/総力をあげてとりくめば | |
企業はだれのものか | 147 |
国民全体の共有財産/アメリカの昔と今と/アメリカのあとを行くのは/よりよき生産よりよき消費/過当競争はなくならないか/欠けていた“進歩と調和” | |
日本・再開発 | 183 |
公害だらけの日本/はたして今のままで/これからの企業のあり方/よりよき道の創造/第一歩から出直すとき/物価上昇のおかげで | |
『日本列島改造論』に思う | 203 |
成功をおさめた戦後の歩み/一番大きな弊害は何か/過密過疎と物価騰貴/「改造論」だけで事足りるのか/国土建設奉仕隊をつくって | |
日本 立て直しのこのときに | 225 |
地価高騰を抑えるには/知らず識らずのうちに/その日暮らしの日本の姿/いま立て直さなければ | |
こうすれば物価はさがる | 241 |
物価は本来さがるもの/責任自覚による不信感の解消/犯罪がふえれば物価はあがる/正しい人権尊重の発現と普及/いまは非常時だ | |
新生日本への意識革命を! | 259 |
世界のなかの日本の位置/自由を生かす良識を/国民自身の責任を問う/偉大なる人間の本質への自覚を/新生日本への意識革命を | |
あとがき |
まえがき
私たちの国日本は、戦後このかた実にめざましい発展をとげてきました。この発展がどうしてもたらされたのかということについては、いろいろな意見、考え方もありましょうが、私はやはり国民一人ひとりが、それぞれに多くの人たちの知恵を集めあった、つまりいわばお互いが衆知を集めあい、日本の再建に努力してきたからこそではないかと思います。しかもその衆知は、ひとり日本国内だけにとどまることなく、広く諸外国の衆知を集めることにも大きな努力をはらってきたのです。
そうした日本再建の努力によって、私たちの国日本は、産業を中心にあらゆる分野において、世界の人びとが驚くようなすばらしい発展を続けてきました。
しかし、その反面、そうした発展にともなって、いわばそのカゲのように多くの弊害が生まれてきました。たとえば自然破壊の問題、公害、交通戦争など。こうしたさまざまの弊害を考えあわせますと、このままでは私たちの将来は、必ずしも好ましいものになるとは考えられません。
発展には弊害がともなうということは、いま考えてみれば当たりまえのことのようです。が、知恵も集め、お互いに話し合いながら、それでも懸命に努力している間は、神ならぬ人間の私たちには発展にともなって弊害が生まれてこようとは思いもよりませんでした。
ですから弊害に気づいたときには、私たちはみんな一様に大きな衝撃をうけるとともに、非常な驚きを感じたのです。そしてどうすべきか、どうしたらいいのかということで、すべての人びとが右往左往しているのが今日の私たち国民の姿ではないでしょうか。
私は一企業人として、戦後日本の発展とともに歩み続けつつ、その過程においてさまざまのことを思い考え、それらをときに話し、ときに筆をとって世に訴えてきました。が、いまこの大きな問題に直面した私たち日本人と日本を考えるとき、そうした私の考えが過去のものではあっても、あるいは今後の日本の将来にわずかながらでも役立つのではないかと、おこがましくも思ったのです。
そこで、いままでの論述、講演などのなかから比較的私たち日本の将来に関連があると思われるものを数篇選びました。そしてこれに新たに『日本列島改造論』を読んで思い感じたこと、今後の新しい日本人のあり方等についての私見の一端をあわせ収録したものが本書なのです。そのため、それぞれの篇の間に主張点の重複が、多少あることをお許しください。本書が果たしてどれほどみなさまのご期待にそいうるか、また実際にどれほど有効であるかどうか、いささかおぼつかない感じもいたしますが、私たちの共同生活をよりよきものにしたいという私なりの思いをお汲みとりいただき、お目通しいただければ幸甚です。ご意見、ご高評を賜わりますことをお願いいたします。
昭和四十八年七月
松下幸之助