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著作から見た松下幸之助の世界

日本はよみがえるか

日本はよみがえるか    
昭和53年
PHP研究所 刊
四六判(190mm×130mm)
200ページ
   

 

長引く不況、暮らしの不安——この難局は従来の考え、方策では解決できない。日本を覆う不安の真因を探り、豊かな発想への転換を説く。

 

PHP Interface PHP研究所

目次

まえがき
21世紀の受け皿日本
アメリカの次はアジア14
今のままではゆきづまる17
日本独自の行き方を20
日本の資源は無尽蔵
資源のない豊かな国28
日本は“持てる国”31
貧困な発想からの転換を34
尊敬される日本になってこそ38
日本人の優秀性
まずみずからを知ることが44
日本の役割と運命46
精神面の裏付けが必要49
すぐれた点を発揮して53
人間に物資はついて回る
過去の歴史が物語るもの58
なぜ新たに人を雇うのか62
日本は石油が心配か66
新しい日本像を70
なすべき仕事は無限
なぜ不景気が続くのか74
日本には無限の仕事が77
不況をつくっている日本79
算術でなく高等数学を 
無から有を生じてこそ84
政府が借金する番87
思い切った大減税を91
儲けないから増税が95
人民日報の社説98
不景気も生成発展の過程
すべては生成発展102
心で不況をつくっては105
人間本来の姿107
労働力が最大問題
労働力が足りなくなる112
「ルーツ」とアメリカの発展114
将校の教育ばかりでは118
労働の神聖さを忘れている121
大学が多いだけでは
大学へは五人に一人が126
大学へ行けば幸せになれるか130
感謝の心を忘れていては133
やっぱり政治の生産性
まず殿様自身の経費から140
経費節減に成功する方法143
香港の政治はなぜ安い146
日本は金のかからない国149
根本的に発想を転換して152
十一どうすればリーダーが育つか
リーダーがいない158
教えるべきものをつかんで162
昔の先生は尊敬された164
総理大臣一人の責任168
国民の良識が大切173
十二甘えをすてよう
すべては人にあり180
やり方はいくらでもある183
昔の成人式は切腹の作法を185
みんなが甘えている189
もっときびしさを193
結語

まえがき

  わが国の昨年の企業倒産件数は、史上最高の二万件ちかいものとなった。一昨年は一万五千件くらいであったから、状況はしだいに悪化しつつあるともいえよう。もちろん、だからといって、ことしもさらに悪くなるとは限らない。政治の面でも予算面その他でいろいろと現状打開への努力が払われているから、そういった効果があらわれ、しだいに明るさをとり戻すことも考えられる。
 けれども、また一面、今のような姿のままでは、すぐによくなることはなかなかのぞめないであろう、というのが多くの人の考えのようでもある。そういうことで、お互い国民は、前途に対して悲観的というか、光明を見出すことができにくく、いわゆる混迷に陥っているのが今の日本の一面の姿だといえよう。
 しかし、もしも仮にこのまま推移してゆくとするならば、これは国家社会としても、お互いの生活、人生にとっても、好ましからざる姿がさらにふえてきかねない。企業の倒産、そして失業者の数はさらにふえるであろうし、新卒者の就職状況も好転しない。失業については、最近では救済措置が向上してきたとはいうものの、産業活動が長く停滞を続ければ、税金もふえないから、財政的にしだいに問題が出てくるのではないだろうか。
 すでに増税もいろいろ考えられているが、増税は国民の活動意欲を阻害し、産業活動の停滞に拍車をかけるおそれがあると思われる。そういうことを考えると、一面、まことに憂慮すべき悪循環に日本は陥りかけているのではないかという気もする。
 だから、このままではいけない。この悪循環を断ち切って、新しい好ましい日本の姿を生み出してゆかなければならない。そのためには、政治はもとより、経済、教育、その他社会の各面の活動の上において、またお互い一人ひとりの生活、活動の上において、抜本的な意識革新というか、根本的な発想の転換をはからなければならないと思う。
 われわれは今、21世紀の日本に向かって歩一歩、歩みを進めつつある。その21世紀の日本がどのようなものになるか、それは今のお互いの考え方、行動のいかんにかかっている。だから今こそ、お互いにのぞましい21世紀の日本に向かって歩むために、新しい発想を生み出さねばならない。そして、それに基づいて新たな歩みを進めてゆかなければならない。
 そういうところからまた、昨今の難局をのり越え、日本が好ましい姿へと浮かび上がってゆく道も見出されるのではなかろうか。この難局を打開し、21世紀にのぞましい日本を生み出してゆく発想の転換をお互いが行ない、そこに新しい歩みを進めてゆくために、本書が何らかの参考となれば幸いである。

  

昭和五十三年一月
松下幸之助

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