豊富な体験の中から得られた興味深いエピソードを通して、 人間として、社会人としての心得、 心がけを語りかける現代サラリーマンの心得帖。増補改訂版および文庫版には、『週刊文春』誌に連載された「サラリーマン諸君!」の中から8編を選び、追加収録されている。

まえがき

 いまをさかりの遊女高尾大夫に、一目ボレした紺屋の職人久どん。ぜひ会いたいの一心から、夜の目も寝ずに働きつづけて三年間。ようようためた十五両。それを一夜で散じたその心意気に、私は自分のとうてい及ばないものを感じて、いたく心打たれる思いがした。
 本書の題名ともなった、この久どんの話をはじめとして、ここにおさめた三十八編の随想は、若い人びとに対していろいろな機会に語ったり書いたりした話をまとめたものである。その内容はお読みいただけばわかるように、仕事に取り組む心がまえといったものもあれば、人生なり社会の問題についての私なりの考え、あるいは四季折り折りの感懐をつづったものなどさまざまである。
 今日の世の中をみていると、いろいろと問題も多く、また変化もはげしい。日本といわず、世界全体が何かしら一つの大きな転換期に直面しているような感じさえ時にしないでもない。そのようなときにあって、お互いに人間として、社会人として、また日本人の一人として、何を考え、何をしていったらいいのか、そういうことをそれぞれの立場で自分にも問い、またともに考えあっていくことが大事なのではないだろうか。
 本書の一編一編は、私なりにそういった思いを若い人びとに訴えたいという気持ちから出たものである。もっとも社内での内輪話が多く、意をつくし得ていない点もあろうが、そのような意味からいささかなりともご参考になれば幸いに思い、あえてご高覧に供したしだいである。
  

昭和四十六年六月
松下幸之助


増補改訂にあたって

 さきに出版した本書は、幸いにして多くの方がたからご好評をいただき、有難く、感謝している。
 このたび、本書の判型を改め、また内容についても、以前『週刊文春』に連載した「サラリーマン諸君!」の中から八編をえらんで追加収録し、増補改訂版とした。
 本書が若い人びとにいささかなりともご参考となれば、まことに幸せである。
  

昭和四十八年八月
松下幸之助

  • 【文庫版】目次

まえがき
増補改訂にあたって
サラリーマン諸君
 ときには昇進も辞退する 12
 年始まわりは社内から 18
 あなたは仕事に惚れているか 24
 安心して心配しなさい 30
 あなたの働きはいくらか 36
 身も心も、そして財産も 42
 結婚は大事だけれど 48
 あなたは仕事のプロである 54
打ちこむ
 その心意気やよし 62
 業即信仰 68
 生涯相まみえなくても 72
 お山の大将 77
 誠意あればこそ  82
 やればできる87
 馬番としての秀吉 92
求める
 叱ってもらおう 98
 横綱にしていただく 104
 一人がめざめれば 109
 給料を返上した話 114
 みずからを高める 119
 是なることは一刻も早く124
 信長とフォード 129
素直な心で
 みずからを省みる 136
 将棋とファンづくり 140
 七十点以上の人間に 144
 宮本武蔵と電子計算機 148
 時を尊ぶ心 153
 千七百軒の店舗 158
人として
 欲ということ 164
 心の病気 168
 鯉と教育と 173
 早春閑日 177
 心をかよわすために181
 道は無限にある186
日々を生きる
 物語にならない話192
 大きな縁のもとに197
 凡人の歩む道203
 大器晩成ということ209
 仕事というもの214
 女らしさの幸せ219
日本を考える
 二本の巻物224
 高野山にて229
 争わず認めあう時代234
 正常な姿に戻す239
 バランスある姿244
 転換期に立つ249