失敗を自らの成長の糧にする。誰もが思うように、松下幸之助もそうありたいと願いました。成功すればそれは運のおかげ、失敗は自分のせいと考え、事あるごとに反省をくり返しました。さらには成功のなかにも、小さな失敗があると考え、その失敗をも自らに生かすよう心がけたのです。

(2013.12.25更新)

 

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 月初に年初、月末に年度末……。その折々に、心を新たに、自らの言動を省みる。そうして得ることのできた自分なりの答えを次に生かして、成長の糧としていく。この「反省」という行動を、日本人は経営のなかにも活用してきました。営業部門での朝礼や夕会、生産現場ではQCサークルなど、反省をおこなう場をつくり、巧みに生かしてきたのです。またそうした風土があって、「カイゼン」活動なども生まれてきたのでしょう。

 

 松下幸之助も同じく、経営者として、年初の経営方針発表、月次の決算、何周年を記念した催し等、さまざまな機会(タイミング)を活用し、ともに働く社員の心を合わせていくことに積極的でした。さらには、なにか失敗を経験するたびに、まず率先垂範して自らの責任を問い、反省し、即座に立ち上がる。そうした姿勢をみせることが、結果として社員の士気を鼓舞することになり、自社の成長・発展にもつながっていったのです。

 

▼以下の肉声を、最下部の動画で聞くことができます。

 会社がどうなるとか、こうなるとか、いろいろ問題がありますけれども、全部よくないことがあるといたしますと、それは会社経営首脳者に責任があって、それ以外何ものもない。こういうようなはっきりした考え方をもたねばならないと思うんです。というのは、私自身が五十五年それをやってきたんです。

 

お得意先がつぶれた、えらい損をかけられた、けしからんなと思います。しかしそれはその瞬間である。その次の瞬間は、これはやはり自分が誤っとった。もうそういうことをちょっと考えれば、ああいうとこへ売ってはいけない、ああいうとこと取引きしたらいかんということがわかっているはずや。それをわからずして時を過ごしたということは、結局自分自身のこれはまちがいやないかと、こういうことになるんです。そういうことをその都度反省してまいりました。

(CD『松下幸之助 経営百話』より)

 

 欧米の企業風土においては、日本人のように、つい「反省」してしまう姿がかえって自らの過失を認めるものと受け止められ、責任をとらされるといったケースもあるといいます。ですから、グローバル社会で生きる術として、「反省」も、時と場所と場合を考える必要があるでしょう。しかし自らの心のなかでおこなう「内省」は、この限りではないはずです。

 

 松下がいう「反省」もたいていそうした内省を指すのであり、本人は「自己観照」ともいいました。「悩んでも悩まない」「困っても困らない」……松下の数々の言葉は幾度となく内省をおこなうなかで生まれてきた実感だったのでしょう。

 

 また松下は、内省をするときに、自らに言い聞かせる、自らを励ますということにも努力していました。「自分は運が強い」「経営はうまくいくようになっている」といった信念を培ううえでも、内省は大いに生かされたわけです。そして首尾よく成功したとしても、さらに以下のように考えるようにしていたといいます。

 

 成功といっても、それは結果での話であって、その過程には小さな失敗というものがいろいろある。それらは一歩あやまてば大きな失敗に結びつきかねないものであるが、おごりや油断があると、そういうものが見えなくなってしまう。けれども、「これは運がよかったから成功したのだ」と考えれば、そうした小さな失敗についても、一つ一つ反省することになってくる。 (『実践経営哲学』より)

 

 自分の成功は運のおかげと言い聞かせ、謙虚にその成功を見つめなおす。すると案外、反省し改善すべきことがみつかる。そこに気づいて、地道な反省を積み重ねていくことで、成長し続けることができたのです。松下は、こうも述べています。

 

 朝に発意、昼に実行、夕べに反省、こういう日々をくり返したいということです。同様に、毎月、毎年のはじめに発意、おわりは反省。そして五年たったら、その五年分を反省する、そうすると五年間に実行してきたことのうち、よかったこと、よくなかったことがある程度わかってくると思います。 私自身の経験では、おおむねあやまちないと思っていても、五年後あらためて考えてみれば、半分は成功だったが、半分はしなくてもいいこと、失敗だった、ともいえるように思うのです。そのように反省しつつ歩むならば、次の歩みをあやまちなく進めることもできるわけです。

(『商売心得帖』まえがきより)

 

 2013年は、アベノミクスや2020年東京オリンピック開催の決定など、経済回復を予感させる出来事がありました。2014年はどうなるのか。希望と不安が入り混じるなかでも、松下がそうであったように、まずは「これまでの自分」を反省し、「これからの自分」に生かしていく。そうして、お互いになすべきことをなしていきたいものです。

 

 

 

 

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