自らが創設したPHP研究所が30周年を迎えた昭和51年、松下幸之助は、21世紀初頭の日本はこうあるべきだ、こうあってほしいとの願いをこめて『私の夢・日本の夢 21世紀の日本』という本を出版しました。それは未来小説という体裁をとっていますが、いわば松下幸之助の提言の集大成ともいえるものでした。
 松下幸之助が描いた「理想の日本」「理想の日本人」とは、いったいどんなものだったのでしょうか。

政治理念の確立なくして力強い政治は生まれない 【政治観2】 からのつづき

 

松下幸之助が描いた21世紀の日本

政治が安定している国――part3

 政治家はこれらの政治理念をつねに堅持し、実践して、国民の働きを活かす重大な責務を負っている。一般勤労者が汗水たらして働いたその成果はそれぞれに尊いものであるが、その個々の働きにはおのずと限度がある。しかし、政治家の働きの成果というものは、全国民に及び、一般国民の千倍万倍の大きさをもつといってもよい。政治家の考え方なり働きが当を得たものであれば、一般国民の千倍万倍の効果を生み出す。しかし、逆に、その考え方、活動に欠けるところがあれば、やはり千倍万倍の悪影響を国民に与えることになる。政治家の仕事はそれほど重要だというのである。

 また重要な仕事だからこそ、それに専念してもらうために給料を高くし、待遇をよくする必要があるという。そのことによっていい政治ができるのであれば、国民にとってどれだけ利益になるかわからないからである。

 松下幸之助は、国会議員の基本的な条件として、次の三点をあげている。

 まず、自分のこと以上に国家国民の繁栄、平和、幸福を思う心がなければならないということ。どの党に属そうとも、党利党略にとらわれてはならないし、どのような団体から推されて議員になろうとも、その団体の利害に左右されてはならない。あくまで、国民全体の利益を優先して考え行動する。その意味で、「一人一党」でなければならないというのである。

 次に、国民生活の実情に通じ、それをさらに高めていくことのできる豊かな識見と力強い実行力をあげる。国というのはさまざまな感情をもった人間で構成されている。だから国会議員はたんに理論を知っているだけではいけない。いろいろな体験を重ね、人情の機微に通じて事を行なえる、いわば苦労人でなければならないのである。

 三つ目にあげているのは、議会制度の本質についての正しい認識とそれに基づく行動ができるということである。議会というものは、よりよい国策、法律を国会議員がその高い識見をもって生み出していく場である。つまり、国民の見守るなかで、大いに議論、審議をつくし、国民に政治に対する認識、理解、判断の資を供する。それとともにその結果を国策なり法律として決定していくのが国会という場である。そのことをしっかりと認識すれば、国会において議員が忘れてはならないことがおのずと明らかになるだろうという。

 

国民はみずからの程度に応じた政治しかもちえない 【政治観4】 へつづく
◆『[THE21特別増刊号]松下幸之助の夢 2010年の日本』(1994年10月)より
 

筆者

谷口全平(元PHP研究所取締役、現客員)

 

筆者の本

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関連項目

松下幸之助の社会への提言【政治】
松下幸之助の社会への提言「私の夢・日本の夢 21世紀の日本」
松下幸之助の政治・経済・社会・国家観
 

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