本コラムでは、松下幸之助をはじめとする日本の名経営者・実業家の考え方やことばを紹介しながら、リーダーとして心得ておきたい経営の知恵を解説します。

 

<真の経営者とは> みずからを厳しく律する

些細なことをおろそかにしない

 三菱グループの創始者、岩崎弥太郎は、あるとき、信頼する幹部、近藤廉平(後の日本郵船社長)を自宅に呼び、一枚の紙を示して「近藤君、これは何か!」と一喝した。近藤が恐る恐るその紙片を見ると、自分が出した欠勤届で、会社の用箋に書いたものであった。
 岩崎は語気荒く、「いやしくも本社幹部たる君にして公私を分かたず、私用の欠勤届に会社の用箋を使うとはもってのほかだ」と、一年間の減俸を命じたという。


 ここで問題にされたことは、いってみれば、きわめて些細なことである。しかし、こうした些細と思われることをおろそかにしたために、しだいに何もかもがルーズになって、ついには大きな問題に発展したりすることが往々にしてある。今日、企業の起こしている問題の多くも、公私のけじめやみずからを律するといった些細と思われることをおろそかにしたことから生じたものが少なくない。


 とくに経営者・責任者の地位にある人の言動は、それが些細と思われるようなことでも、きわめて大きな影響を及ぼす。前掲諸氏のいうように、トップの一挙手一投足は、社員にいつも注視されており、公私混同、けじめの乱れは、瞬く間に社員間に広がっていく。それだけに、経営者・責任者は、社員の疑いを受けたり後ろ指をさされたりすることがないよう、みずからを厳しく律し、つねに身を正して行動していかなければならない。

 

まずトップである自分から

『論語』に「其ノ身正シケレバ、令セズシテ行ワル。其ノ身正シカラザレバ、令ストイエドモ従ワズ」という言葉がある。確かに公私のけじめをわきまえない経営者が「私用電話はいけない。公私のけじめをつけよ」といくらいっても、効果はあがらない。やはり“まずトップである自分から、行動を正していかなければならない”という心がまえをもち、みずからに厳しい姿勢を堅持しつつ、ひたむきに経営に取り組んでいく。そうなってこそ、この『論語』の言葉にあるように、命令をしなくても、必要なことが実行されるようになるのである。


 高い地位にある人は、大きな権限をもち、自分の思うようにできる。しかも面と向かって諫言や注意をする人が少ないだけに、時間や公私のけじめ、仕事に対する熱意など、経営者・責任者として社員に見習われてまずい点はないかどうかをつねに点検し、身を正していくことが肝要であろう。

 

◆『部下のやる気に火をつける! リーダーの心得ハンドブック』から一部抜粋、編集
 

筆者

佐藤悌二郎(PHP研究所専務取締役)
 

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