本コラムでは、松下幸之助をはじめとする日本の名経営者・実業家の考え方やことばを紹介しながら、リーダーとして心得ておきたい経営の知恵を解説します。

<ゆとりと活力を生む経営>心のゆとりと遊び

経営を忘れずに遊ぶ

 今日、多くの人が、ビジネスにおける遊びの効用や遊び心の大切さを指摘している。モーレツ主義は時代遅れで、効率や能率ばかりを追求していては発想が行きづまる。ムダや遊びにも価値があり、遊び感覚からこそ柔軟な発想が生まれるというのだ。

 確かに、違う世界、非日常の世界に遊ぶことで、それまでの日常の世界では見えなかったものが見えてくることがある。仕事から解き放されて、身も心もゆったりしているときや、頭の中が空っぽになったときに、フッとアイデアが浮かんだりする。逆に、ゆとりがなく、せかせかとして平常心を欠いていると、いいアイデアもなかなか浮かばない。その意味で、ときに日々の仕事をすっかり忘れ、別の世界を積極的につくっていくことは、経営者としても大いになすべきことであろう。とくにこれから感性や柔軟な発想がますます要求される時代になっていくであろうことを考えれば、この遊びなり遊び感覚はよりいっそう必要になってこよう。

 とはいえ、いかに遊びが大切といっても、経営者はそれに堕してはならない。かつて、松下幸之助は、「経営者たるものは、いついかなるときも心を許して遊んではならない」といっていた。そして松下自身、一瞬たりとも経営を忘れることは許されないと考え、仕事が楽しくてしかたがない、仕事はわが慰めであり趣味である、という境地を求めていた。

遊びは仕事の影のようなもの

 もちろんこの松下のような心境に達するのは、なかなか難しいことである。実際、仕事ばかりでは、精神的にも肉体的にもまいってしまう。人間には、張りつめた真剣な時間があればあるほど、一方で心を弛緩させ、のんびりするときが必要で、いわば遊びは仕事の影のようなものだといえる。だから遊びも結構、趣味に打ち込むのも大いにやってよい。

 しかし、課せられた責任を考えれば、経営者にとって、基本は、やはり仕事あっての遊びであり、まずは仕事に打ち込む。そのうえで遊ぶときは大いに遊ぶことである。並はずれて創造性を発揮する人は、仕事に対する執念、執着心が非常に強い。そしてそういう人は、ふだん考えに考えているから、仕事を離れ、遊んでいるときに、フッといい考えや発想が生まれてくるのであろう。そうでなければ、いくら遊びが大事といっても、ユニークな発想や考えはそう簡単には浮かんでくるまい。

 厳しい経営・経済環境のなかで、経営トップがしかめっ面をしていたのでは、社内の士気は上がらない。会社全体が暗くなる。ここはひとつ、真剣に経営に臨みつつも、深刻にならず、遊び心をもってみずからゆとり、平常心を確保しつつ、明るく従業員を引っ張っていくことこそ肝要であろう。

◆『部下のやる気に火をつける! リーダーの心得ハンドブック』から一部抜粋、編集

筆者

佐藤悌二郎(PHP研究所客員)

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