決して、次々と起こる困難な状態にひるんではならない。困難であれば困難であるほど、知恵を出してやれば無限に英知というものが湧いてくる。使えば使うほど知恵が湧いてくる。そういうように思いますから、決して心配要らないということを原則として思っておりますけれども、しかし、個々の面には非常に努力しないといかん。個々の面にはかつてないほど勉強しないといかん。

『松下幸之助発言集28』(松下電器第166回経営研究会・1978)

解説

 松下電器(当時)の経営幹部に向けた言葉です。

 「心配要らない」という心持ちを原則としてもったうえで、「非常な努力、かつてないほどの勉強をしないといけない」と考える。この発言には、幸之助の行き方が端的に示されています。

 困難を困難とせず、チャンスに変えることを標榜し、みずから実践、結果を出してきた幸之助ですが、実際には、遭遇した困難に負けないだけの努力・勉強をしてこそ、その困難を克服・突破できるのだという強い思いが根底にあったのです。

 そして、ここでもう1つ注目すべきは、幸之助の「話し方」「伝え方」です。

 まず「心配要らないぞ」と勇気づける。しかし「努力・勉強もかつてないほどせよ」と檄を飛ばす。この2つの言葉がセットになると、受け取る側も、いま直面している困難がどれほど大変なものかがわかり、しかもその打開に前向きに取り組めるのではないでしょうか。

 言葉は多すぎてもよくないが、足りないのもよくない。またその局面に応じたもの、聞き手に応じたものでないといけない……。幸之助が経営者として、優れたリーダーシップを発揮することができた理由の1つは、この話し方・伝え方の「妙」「コツ」を体得していたことにあるといえるでしょう。

学び

日々の生活のなかで、どれだけ「話し方」「伝え方」を意識しているだろうか。

場に応じた、立場に応じた的確な言葉を発することが、ほんとうにできているだろうか。