社会
繁栄の社会
人おのおの、その与えられた生命力を生かしていくことによって、身も豊か、心も豊かな繁栄の社会を実現することができます。
繁栄は物心両面にわたるものであります。しかも物にも偏せず心にも偏せず、そのいずれをも満たす豊かさが、真の繁栄であります。これが人間の幸福な姿であります。
一人だけの繁栄はありえません。繁栄はすべての人につながっています。お互いに、各人各個の生命力が生かされる自由な社会をつくりあげねばなりません。
楽土の意義
人おのおのに与えられた天分をそれぞれに生かすとき、そこに人間の幸福が味わえます。楽土とは、だれもがこの天分を自由に生かすことのできる社会であります。
天分を生かすためには、それにふさわしい仕事が与えられねばなりません。天分は人によって異なりますから、多くの仕事の種類が必要であります。
仕事の種類を増やすためには文化を高めねばなりません。文化が高まり、人々がその天分を生かす仕事についたとき、人々は楽しんで働くようになります。こういう社会が真の楽土であり、また完全な民主主義社会でもあります。
平和の意義
平和には二つの姿があります。その一つは活的平和であり、他の一つは死的平和であります。
活的平和とは、対立しつつ調和しながら常に生成発展していく姿であります。死的平和とは、対立もなければ調和もない無為の姿であります。
平和には常に生成発展が伴わなければなりません。死的平和からは生成発展が生まれません。生成発展を生む活的平和こそ真の平和であります。
国家と世界
一定地域の一民族または数民族が相寄って、その民族の繁栄、平和、幸福を増進し、人類の文化を向上せしめるところに国家の目的があります。
国家はその目的を実現するに必要な国家秩序を確立し、これにもとづいて、精神文化と物質文化との調和ある発展を図らなければなりません。
国家秩序は世界秩序の一局面であり、世界秩序は宇宙の秩序にもとづかなければなりません。国家相互に融和協力しつつこの世界秩序を保持していくとき、人類の向上と発展とが生まれてまいります。
国民生活の意義
自然から与えられた人間本然の姿を生かし、その国の歴史と伝統とを踏み固めて、一歩一歩、繁栄と平和と幸福とを築きあげていくところに、国民生活の意義があります。
国民としての生活を全うするには、一人一人が素直な心で、日に新たなる生活を営み、各人の天分を発揮しなければなりません。
すべての人が、それぞれの仕事に天分を見いだし、これに精励するとともに、広く国事をわがこととして、政治に強い関心と責任をもつことによって国民生活の繁栄が生まれてまいります。
調和の思想
平和を乱し、貧困を招くのは、お互いが個々の思想や主義にとらわれているからであります。個々のものは真理の一面を語っていますが、これを真理の全体としてとることは誤りであります。
個々のものをそれぞれに生かし、高き秩序に従ってその力を活用するところに調和があり、これによって真理が全面に働いてまいります。
お互いの自覚と努力とによって、すべてが調和される社会がつくられます。その中におのずから繁栄、平和、幸福が醸成されてまいります。
権力の意義
権力は社会の秩序を保つための一つの大きな要素であります。これは真理の顕現によって自然に生まれてこなければなりません。
暴力や武力や財力はいうまでもなく、知力にもとづく権力すらも、いっさいこれを排しなければなりません。一党一派に偏した私の権力は、衆知を阻み、人々を不幸に導きます。
正しい権力とは、人々に繁栄をもたらす世話役としての権限であります。それは公的に行使され、人々の意見を尊重して衆知によって運営されてまいります。ここから文化の発展と社会の繁栄とが生まれてまいります。
社会の温厳
社会は、厳しさと温かさとの二つの面を兼ね備えています。これは人間の本質が社会に反映した姿であります。
厳しさにいじけず、温かさにおぼれず、真実を尽くしておのおのの務めを励むところに、社会に処する真の道があります。
お互いに社会の厳しさと温かさとを知り、これに処する正しい道を知らなければなりません。そこに自己を健全に伸ばしていく道があります。
経済の目的
生産を高め、分配を豊かにして、すべての人の消費に不自由なからしめることが経済の目的であります。
自然の理を基〈もとい〉とし、経験と体験とを生かして、今日の知識を高めていくところに、適正な経済の仕組みが生まれてまいります。
貧困は罪悪であります。われわれは常に経済の仕組みを向上させ、生産と消費を限りなく高めてこれを除去し、繁栄の社会を招来することに最善を尽くさねばなりません。
生産と消費
生産と消費は、人間の経済生活を進める車の両輪であります。生産が消費を支え、消費が生産を進めて、ともどもに調和した姿をもたなければなりません。
生産も消費も、これを抑えることは繁栄にそむきます。生産の多いときは、消費を増すことに工夫し、消費の多いときは、生産を進めることに努力しなければなりません。
お互いに限りなく生産を増すとともに、消費をこれに調和させ、経済生活を豊かにしなければなりません。経済方策の要点もまたここにあり、そこに繁栄、平和、幸福の基盤があるのであります。
富の本質
経済の目的は、すべての人の消費に不自由なからしめるところにあります。しかしこれを達成する営みは、時代とともに変化いたします。
蓄積された物財だけが富ではありません。その物財を生産し消費する力が真の富であります。
生産力だけが進んでも、また消費力だけが増えても、それは富の増大にはなりません。双方が調和しつつ高まっていくところに、富の増大があり繁栄があります。
学問の使命
自由を広げ、秩序を高め、社会の生成発展をもたらすところに、いっさいの学問の意義があります。
自由を狭め、秩序を乱し、生成発展を妨げるもとは、個々の学説にとらわれ、学問の総合調和を欠くところにあります。
学問の意義を悟り、これを生かす力は、賢愚ともに、素直な心に生きることによって生まれます。そこから、よい政治、経済、文化が興り、人類は栄えます。
教育の大本
知情意の調和と育成とにより、人間性を高めて、平和、幸福な人生を築き、社会の繁栄をもたらすところに教育の大本があります。
教育にあたっては、単に学問技芸を教えるだけではなく、人生についての正しい生き方をしつけていくことが肝要であります。
民族の興隆も世界の平和も一〈いつ〉に教育の力にかかっております。われわれは人間としての意義ある生活を実現するため、教育に最も意を注ぐべきであります。
文化の意義
文化とは、宇宙の法則を一つ一つ解明し、生活に生かしていくことであります。ここから、広い自由と、高い秩序と、限りない生成発展が実現してくるのであります。
秩序があっても自由がなく、自由があっても秩序がなければ、生成発展はありません。生成発展がなければ、文化生活も文化国家も望めません。
真の文化は精神文化と物質文化とが併行して進展していくところに生まれます。そこにまた繁栄、平和、幸福が約束されるのであります。