時代の流れ、世の中の変化に対応してゆくことが大事だとは言っても、世間の動きに心をうばわれるあまり、みずからの信念なり自分の店の伝統というものを軽視することがあっては決してならないと思います。ここが非常に大事なところだと思います。「根なし草には花が咲かぬ」と言いますが、自分自身にしっかりした信念がなければ、ほんとうの商売というものはやはり営めないと思うのです。
『店会タイムス』(1967)
解説
「根なし草には花が咲かぬ」。日本の昔からの言葉です。たしかに植物は、根っこがなければ、自然の恵みを吸収できず、いずれ枯れてしまうでしょう。結果、美しい花を咲かせることはできません。
商売人もまた、“商売かくあるべし”という確たる信念のもと、日々真剣勝負で取り組んでいかなければ、商売を永続させることはできないのです。
たとえばスーパー業界の雄となったイオングループ。その創業家の家訓は「大黒柱に車をつけよ」です。人・時代・市場などの変化に柔軟に対応し、売場を大黒柱ごと移動して商売せよという意があるそうです。この行き方は一見、「根なし草」のようにもみえますが、けっしてそうではなく、商売すべき土地で商売せよ、過去の土地での成功体験にこだわるな、という「信念(=根っこ)」に支えられているのです。その根っこがあるから、いま大きな花を咲かせているのでしょう。
そして「信念がなければ、ほんとうの商売は営めない」という、幸之助が自らの経験のなかから導き出した言葉も、誠心誠意、商売に励めば励むほどに得心ができるものになるでしょう。時代に即して、商売の手法・手段は変えていかねばなりません。しかし変えるべきは戦略や戦術であって、信念ではない。その信念が真理であり、正しいものであるかぎり、商売は繁盛を続けるにちがいありません。
学び
自分の行き方はどうか。
そこに信念はあるか。