やっぱり奉仕の心を忘れたらいけない。われわれはお互いに奉仕しあっているんや。ぼくは諸君に奉仕している。諸君もまたぼくに奉仕をしないといかんな。お互いに仕えるということやな。仕えあうということが非常に大事や。これを忘れたらいけない。その心持ちがなかったらあかんで。そういうものがお互いの絆をつなぐわけや。それが人間の一つの姿や。そういうことがわからないと、具合悪いな。
『リーダーになる人に知っておいてほしいこと』(1980)
解説
今回の言葉は、松下幸之助が松下政経塾生たちに語ったものです。孫よりも若い世代の若者たちに「ぼくは諸君に奉仕している」という80代の老人の姿を想像すると微笑ましささえ感じられます。莫大な私費を投じて、塾生が研鑽する施設を提供し、しかも幸之助自身がこうして指導をしているのですから、たしかに「奉仕している」といえるでしょう。
「お互いに仕えあう」。お互いに感謝し、与えあい、「絆をつなぐ」。わかってはいても、とかく求める心のほうが優先してしまうのが人間というものです。あるいは、自分には与えるものなどないと思う人もあるかもしれません。そうした人たちに、幸之助ならどう語りかけるでしょうか。
ある対談で幸之助はこんなことをいっています。「与える心さえもつならば、与えるものは必ず誰にでもあるはずである。たとえば、極端にいえば、駅で電車を待つあいだでも、プラットホームにゴミが落ちていれば、それを拾って屑箱に入れる。これもやはり与える心だと思う。まずそういうことから始めたらよい。もしそれもできないとすれば、やさしいことばを周囲の人にかけてあげることである。お世話になっている人には、心から『ありがとう』といい、一生懸命働いている人には、『大変ですね。あまりムリをなさらんように』などという。そういういたわりのことばをかけることでも、立派な与える心になると思う」(『人間本来の姿に立ち返ろう』より)。
ここで幸之助のいう与える心とは奉仕の心のことでしょう。自ら与えよう、奉仕しようという心があれば、誰もが無限に与えるものをもっていると幸之助は考えたのです。そしてそうした心がなければ、人間として「具合悪い」ぞ、ましてやリーダーになる資格はないぞと優しくも厳しく、塾生たちを戒めているのです。
学び
仕えあう。与えあう。
そして絆をつなぐ。