万物ことごとく違ってますね。この世に存在する億万という生物、また生物以外の自然物も、みんな神から与えられた一つの姿、生き方、かたちというものがあると思うんです。その与えられた道に従っていくところに、そのものの生きる姿、喜びがあると思うんです。

『松下幸之助発言集8』(ある宗教団体の講演会・1962)

解説

 今回の言葉にある「神」のような人知を超える存在を、松下幸之助はときに、天とも創造主とも、また宇宙の根源ともいいました。

 しかし“神”の表現に違いはあっても、この世に存在する(自分を含む)万物すべてが「“神”から与えられた」ものであり、その恩恵に感謝して生きることが、人間が自らの天命をまっとうするうえで必要だという見方は一貫していました。

 幸之助のこうした哲学は、経営においても反映されます。自社のカネ、土地、人材といったものはみな世の中からの預りものであり、公のものである。その公のものを使わせてもらって事業を営む以上、得た利益を社会に還元していくのは企業の責務である。社会の公器として、世の中の発展、繁栄に貢献するのが、産業人としての道である。そうした考え方に徹し、行動し、そこに喜びや感激を味わうことで、実際に、幸之助率いる松下電器は大いに隆盛することになりました。

 “生物多様性”という言葉があります。現在3,000万種といわれる地球上の生命はそれぞれが個性をもっており、その多様な生物がつながりあう生態系から、人間が得る恩恵を“生態系サービス”というそうです。その生態系サービスに感謝し、持続可能な共存共栄の社会を生みだしていくことがいまの人間に求められています。それはまさに、幸之助が求めた「与えられた道に従っていく」ことでもあるのではないでしょうか。

学び

ともに生きる生命がある。

その生命を生かすのが人間に与えられた道である。