われわれは一貫して続いているんです。皆さんの血は皆さんによってできたんじゃありませんよ。皆さんの血は数千年、数万年前からのわれわれの祖先によってずっと受け継がれておるんです。生きて流れているんです。そういうことを考えると、断絶というものは絶対ないと思うんです。
『松下幸之助発言集11』(拓殖大学での講演・1969)
解説
「断絶というものは絶対ない」。今回の松下幸之助の発言は、当時ベストセラーとなっていた『断絶の時代』(P・F・ドラッカー著、ダイヤモンド社)を意識してのものでした。
ドラッカーと幸之助。この2人が直接会って話をする機会はとうとうありませんでしたが、幸之助が公の場で、一つの言葉(概念)に明確に拒否反応を示すのは珍しいことでした。その「断絶」についての幸之助の主張の背景にあったのは、当時のドラッカーブームが引き金となり、ドラッカーの本意とは異なる意味合いで、親子の断絶、世代間の断絶といった言葉が安易に流行するという社会現象でした。そうした日本社会の風潮を好ましく思わなかったがゆえの発言だったのです。
続けて幸之助はこう訴えました。“われわれが正しく生き正しく努力していけば、必ずそこから創意工夫が生まれてまいります。きのうよりきょう、きょうよりあすと進歩してまいります。当然の話であります。それは断絶ではありません。それを断絶という一つの言葉に左右されると申しますか、それによってよくない方向にそれを用いている。断絶という言葉は私はかまわんと思うのです。それを生かせばいい。生かさずしてそれを悪い方面に用いて、断絶をさらに深めようとしていっている。そこから生まれるものは、背反と闘争しかない。不信感しか生まれないと思うんです。そういうところに問題があるんやないかという感じがするんであります”。
言葉というものは、流行に乗って人々が深く考えることなく口にするうちに、本来の意味や概念と離れて独り歩きしていくことがあります。「断絶」という言葉の流布が、結果、悪しき風潮を生み出すものならば、それをよしとせず、声をあげる。わが信念を貫く。幸之助のそうした矜持を、聴衆である学生たちはどう受けとめたのでしょうか。
学び
断絶はない。
そう考えるところに社会の繁栄がある。