「素直な心になりましょう。素直な心はあなたを強く正しく聡明にします」と、こういうことを言うてるわけですわ。素直になれば、ものの実相がわかる。色眼鏡で見ない、とらわれた心で見ないから、みなよくわかるだろうと。赤い色は赤く見える、黒いものは黒く見える。まあ本質がわかる。そういう心を養っていくと、正しくものを見られる。したがって賢くなり、聡明になってくる。聡明の極致は英知というか、その上は神知、神の知恵ですな。素直な心になれば、次には神の知恵になるという考え方をぼくはもっているんですよ。

リーダーになる人に知っておいてほしいこと』(1978)

解説

 日々の人生・仕事のなかで自らのなすべきことをなし、自分に与えられた使命を果たしたいと願っている人は多いことでしょう。

 松下幸之助もそう願いました。そして自身がなすべきことを見極めるにはなにが必要なのかと、自らの体験の上に立って考え、考えに考え抜いて、ついにそれは「素直な心」であるという確信を得ます。完全な「素直な心」をもつ人こそが常になすべきことをなせる、神のごとき知恵をもつ人である。その目標・理想の姿を、今回の言葉にもあるように「強く正しく聡明」な人と表現するようになったのです。

 このインタビューは1978年。当時すでに“経営の神様”と称されていた幸之助は、同年に刊行した『実践経営哲学』のなかで、“経営は生きた総合芸術である”と述べ、経営の芸術家たる経営者は、経営において芸術的な名作を生みだす義務があるという哲学を披露しています。

 幸之助にしてみれば、よもや自分が神様と呼ばれることなど想像もしなかったでしょう。しかし「神の知恵」を求め、「強く正しく聡明」な人になるべく、「素直な心」の涵養に日々つとめ、そうした経営者としての義務を果たすことに専心努力してきたという自負はあったにちがいありません。だからこそ最晩年になっても、「素直な心」になることの必要性を、自信をもって世の人々に強く説き続けたのです。

学び

聡明な人になりたい。素直な心になりたい。

神の知恵を授かりたい。