仕事の楽しさ、 厳しさ、 仕事と適性などを中心に、 働きがい、 生きがいを考える。

まえがき

 これまで私は、いろいろな機会に、たのまれて若い人たちに話をしたことが少なからずあるが、そういった話をまとめて本を出してほしいというご要望も多くいただいていた。そこで今回、これまで私が若い人たちに話したもののなかから、とくに会社、商店などに勤める若者に話したものを中心にいくつかえらんで、本書をまとめてみたわけである。
 標題の「社員稼業」という言葉は、あるいはききなれない言葉かとも思うが、これはかつて私が松下電器の社員に向けて話したものである。その意味するところ、内容については、本文のはじめにくわしくのべているが、一言でいうなら、会社に勤める社員のみなさんが、自分は単なる会社の一社員ではなく、社員という独立した事業を営む主人公であり経営者である、自分は社員稼業の店主である、というように考えてみてはどうか、ということである。
 そういう考えに立って、この自分の店をどう発展させていくかということに創意工夫をこらして取り組んでいく。そうすれば、単に月給をもらって働いているといったサラリーマン根性に終わるようなこともなく、日々生きがいを感じつつ、愉快に働くこともできるようになるのではないか。自分が社員稼業の店主であるとなれば、上役も同僚も後輩も、みんなわが店のお得意でありお客さんである。そうすると、そのお客さんに対し、サービスも必要であろう。第一、商品を買っていただかなくてはならない。創意工夫をこらした提案を、誠意を持って売り込みに行く。用いられたとなれば、わが店、わが稼業は発展していくわけである。その発展は自分だけでなく、社内に及び、さらには世の中に広がっていく。だからこの社員稼業に徹することは、自分のためにも、会社のためにも、社会のためにもなるわけである。私は、こういうようなことを考えて、「社員稼業」ということを話し、提言したわけである。
 現在、会社、商店などに勤める若い人びと、またこれから社会へ出ていこうとする若い人びとは数多くおられると思うが、私はそうした若いみなさんが力強く仕事に取り組み、楽しく生きがいを感じつつよりよき人生を歩んでいかれるよう願っている。
 本書がそういう若いみなさんの何らかのご参考になれば、まことに幸せである。
  

昭和四十九年十月
松下幸之助

  • 【文庫版】目次

まえがき(旧版)
社員稼業ということ----序にかえて
一話生きがいをどうつかむか
若さを失わない秘訣23
やさしく物をみる25
適任者をどう選ぶか28
あなたの生きがいは?30
自分の人生を設計する32
運命に従う35
生きがいのない人いませんか38
理想の男性像42
理想の夫婦像44
世間は道場である46
素直な心の初段になる48
現代こそ生きがいのある時代52
・著者のことば55
二話熱意が人を生かす
覚悟をきめる61
責任を自覚する64
会社は公のもの68
先輩にもいろいろある70
ありがたいお得意とは71
人間の弱さを知る74
上司を使う人間になれ78
正しいことをいう信念を持つ81
提言のすすめ84
熱意が道をひらく85
・著者のことば88
三話心意気を持とう
子どもほどけんかする95
社員学の第一歩97
"自分が社長"の心意気を101
適材を適所に生かす107
自分がよければ天下泰平か110
困難に直面して力をつける116
運命を開拓する120
衆知を集めよう122
身につまされて価値を知る124
自分も大事、他人も大事127
・著者のことば130
四話何に精魂を打ち込むのか
何よりも健康が大事137
不幸への落とし穴139
人を使う苦しみ141
仕事のコツを体得する143
私の奉公時代146
命をかける思い149
なぜヒットラーは失敗したか152
働く者の真の使命155
・著者のことば157
五話若き人びとに望む
困難な境涯に打ち勝つ163
一つのことに打ち込む164
相手を見ぬく168
信長の長所172
人を見て法を説く175
適性を生かす177
自己認識ができないと失敗する179
秀吉は自分をよく知っていた181
人のまねだけでは成功しない183
みんなが違う185
利害にこだわらない188
天分をみがく 191
若さを大切にしよう194
・著者のことば197