世間は道場である。人間錬成の道場である。私はそう思うんですよ。いろんな状態がクモの巣を張ったごとくにありますから、それにみな問うていくことによって、自分の具体的な活動のかたちが求められてくると思うんですね。そういうことを尋ねているかどうかということです。
『松下幸之助発言集10』(1970年11月の講演)
解説
「クモの巣」――つまりウェブという近年頻繁に使用される言葉の概念を理解していたかのような発言です。個と個の間、個と企業の間を繋ぐウェブの糸が、松下幸之助には見えていたのかもしれません。
ちなみにこの幸之助の発言は1970年。没年は1989年。ティム・バーナーズ=リーがWWW(ワールド・ワイド・ウェブ)を考案し、その後、ウェブ時代に突入したのが1990年代初め。幸之助だけでなく、多くの識者がなんとなくイメージしていた概念が実際に具現化され実装化されることで幕開けした新時代を、幸之助は残念ながら目にすることができませんでした。
閑話休題、今回の言葉にあるように、世間と人間の関係性というものを、幸之助はことのほか重視しました。企業は世間と“見えざる契約”を結んでいるとし、企業は社会の期待にそって、物を生みだし、その役割を果たしていく使命があると考えました。その使命を果たすには、世間が求めるところをよく知り、そのニーズ・ウォンツをつかんで、具体的な「かたち」にしていけばいい。その努力すべてが人間練成にもつながる。そう考えていたのです。
幸之助が会長時代、松下電器は髙橋荒太郎氏(元松下電器会長)を中心に、グローバル市場にも果敢に挑戦、進出した各国に順応同化し、成功をおさめていきましたが、その要因の一つに、そうした幸之助の考え方が、企業文化・姿勢に十分浸透していたことを挙げてもいいのではないでしょうか。というのも、国内であれ、海外であれ、契約書、サインがなくとも、見えざる契約を誠実に履行するという信念のもとに仕事をおこない、成果を生みだす企業が、世間の信用を得られないはずがないからです。
学び
自分にも社会との見えない約束があるはず。
その見えない約束を見つけ、果たしてこそ、自己成長もできる。