感謝の心はものの価値を高めることになる。一つのものをもらっても、何だつまらない、と思えば、その価値はきわめて低いことになってしまうが、ありがたいという気持ちでいれば、それだけ高い価値が見出せ、よりよく活用できることにもなろう。だから、“猫に小判”というが、反対に感謝の心は、鉄をも金に変えるほどのものだと思う。
『指導者の条件』(1975)
解説
「感謝」の大切さを松下幸之助はよく説きました。それは、釈迦やキリストといった偉大な指導者は、この世に生を受けたことを喜び、感謝し、そこから生じるところの報恩の心を強くもっていたからこそ、世と人心の向上に大いなる貢献を果たしたのだという認識を、幸之助がもっていたからでした。
釈迦やキリストのように高尚な人間でなくとも、お互い人間には「感謝」する心があります。欲しいものをもらったとき、失意のときに温かい言葉をかけられたとき、予期しない好運にであったとき……、そうした場面で、感謝の心が湧きあがってくるのがごく自然な人間の姿であり、それは本能からのものとも、本質によるものともいえるでしょう。
それではこの感謝の心を真に高めていくには、いったいどうしたらいいのでしょうか。幸之助がいうように「鉄をも金に変える」ほどの感謝の心をもつには、どのような姿勢が必要なのでしょうか。
幸之助は“風の音にも悟る人がいる”といいました。それは、かつての国民作家・吉川英治が、小説のなかで羽柴秀吉や宮本武蔵にいわせた“我以外皆我師”の心に通じるものです。人間、さらには森羅万象すべての存在の偉大さを知り、それらに謙虚に素直に耳を傾け、心を通わせ、学ぶ。その大切さを気づかせてくれる知恵の言葉です。そしてそうした姿勢の必要性を自覚し、養い高めていくことで、いつの日か、鉄が金のように見えてくる瞬間も訪れるのではないでしょうか。
学び
日々感謝。
すべてに感謝。