感謝の念ということは、これは人間にとって非常に大切なものなのですね。見方によれば、すべて人間の幸福なり喜びを生み出す根源ともいえるのが、感謝の心だといえるでしょうからね。したがって、感謝の心のないところからは、決して幸福は生まれてこないだろうし、結局は、人間、不幸になるということですな。感謝の心が高まれば高まるほど、それに正比例して幸福感が高まっていく。つまり、幸福の安全弁ともいえるものが、感謝の心だといえるわけですね。その安全弁を失ってしまったら、幸福の姿は、瞬時のうちにこわれ去ってしまうというほど、人間にとって感謝の心は大切なものだと思うのですよ。

『若葉』(1977)

解説

 今回の言葉に、松下幸之助を知るうえで欠かせない表現があります。「根源」です。宇宙に存在する森羅万象すべての源を、幸之助は、根源さんといっていました。宗教的な匂いを強く感じさせる言葉といえます。

 そもそも、幸之助は宗教に深い関心をもっていました。宗教の経営の素晴らしさに感奮興起し、自ら(産業人)の使命を悟ったこと。戦後の心の復興において、宗教に大いに期待し、その活動の活発化を願い、説いてまわったこと。真言宗の僧侶を相談相手とした時期があったこと。PHP研究の道場とした真々庵に「根源社(こんげんのやしろ)」を建立、その後、PHP研究所とパナソニックの本社内にも建立したこと(現在、3つの場所にその社は存在する)......。

 幸之助は、真々庵に着くと「根源社」の前で合掌し、ときに坐禅を組んで瞑想していましたが、「何をお祈りされているのですか」という問いに、「一つは根源に対する感謝や。いま自分がここに生まれているということも根源の力のおかげやからね。もう一つは自分が何ものにもとらわれない素直な心で、自然の理に従っているのかどうかを反省しているのや」と答えています。

 そしていまも、パナソニックの社に前にはこんな文章が掲げられています。「宇宙根源の力は、万物を存在せしめ、それらが生成発展する源泉となるものであります。その力は、自然の理法として、私どもお互いの体内にも脈々として働き、一木一草のなかにまで、生き生きとみちあふれています。私どもは、この偉大な根源の力が宇宙に存在し、それが自然の理法を通じて、万物に生成発展の働きをしていることを会得し、これに深い感謝と祈念のまことをささげなければなりません。その会得と感謝のために、ここに根源の社を設立し、素直な祈念のなかから、人間としての正しい自覚を持ち、それぞれのなすべき道を、力強く歩むことを誓いたいと思います」

学び

感謝の心は幸福の安全弁。

だからこそ感謝の心を日々高めていきたい。