日本人はいい国民であるというて、いいところを探さないといかん。探したものをしっかり握って感激にうち震えつつ、生活を全うしていかないといかんという感じがするんです。そして決して悲観しない。いかなる場合でも、“おまえは日本人やないか。そうや、自分は日本人や。必ずうまくいく”と、こう思うてぼくはやっているわけです。

『松下幸之助発言集5』(大阪青年会議所1月例会・1979)  

解説

 当時84歳の幸之助が大阪の青年会議所の例会に招かれ、若い世代の経営者たちに向けて語ったものです。この講演では、冒頭から「ぼくはまだまだ仕事をしたい」「3世紀にわたって生きようと考えている」と言い、「21世紀まで死なないことに挑戦すると決意した」と公言しています(1894年生まれなので、「挑戦」が実現すると106歳まで生きることになる!)。

 残念ながらその願いはかないませんでしたが、決意の理由が、いかにも幸之助らしいのです。21世紀まで死なない、生きられると考えると「いろいろな意欲が湧いてくる」「ひと仕事できる気になる」からだと、真面目に語っているのです。じつは前年の秋に、幸之助は松下政経塾をつくることを世間に発表し、数日前には発起人の集まりも無事済ませたところでした。きっと精神が高揚していたのでしょう。塾の設立は日本の現状を憂えての「やむにやまれぬ」行動だったのですが、この講演においても、「日本の国に運命があるかぎり、この塾は必ず成功する」と、まるで自分に言い聞かせるように語っています。

 

 『幸福論』などで知られる哲学者アランの言葉に、「悲観主義は気分に属し、楽観主義は意志に属する」というのがあります。志や希望を失って、その日その日を気分次第で生きるようになると、たしかに人間は悩みや迷いが増え続けて、ついつい悲観的になっていくものなのかもしれません。老年になっても、青年のように強い意志をもって人生を歩いていくことをつねに選択し続けた幸之助は、楽観主義の王道を歩んだ一人といっていいでしょう。

 翻って、いまの日本の復興を願い、実現しようと考えるのなら、まずは「日本人はいい国民である」ことを強く意識する。長い歴史と伝統に培われた日本人のよい面を自分なりに認識し、把握する。その「よさ」や「強み」に恵まれたことに感謝感激して、日々強い意志をもって行動していく。そうすることで真の楽観主義が生まれ、人間としての「美しさ」や「力強さ」といったものも、もたらされてくるのではないでしょうか。 

学び

どんなときも悲観しない、悲観主義にならない。

「必ずうまくいく」という強い意志をもち続けてこそ、事は実現できる。