われわれ人間の歴史をみても、おそらく三十年前には想像もできなかったと思われることでも、今日、現実の事実として次つぎとできていることがあります。これはいいかえると、人類の限りない発展の過程の一コマであるというようにも考えられるのです。ですから、決して困難なことはないというようにも考えられます。ただ困難にするかしないかということは、それを困難なこととして認識するか認識しないか、認識してそれを打破する道を見出すか見出さないかということだと思うのです。
『道は無限にある』(1975)
解説
人間には限りない繁栄と平和と幸福が与えられている。松下幸之助のあらゆる活動の根幹にある考え方です。人間とはなにか、繁栄とはなにか、平和とは、幸福とは――みずからの哲学・思索の練成の場を、京都東山山麓の真々庵に求め、PHP研究と名づけて、日々いそしみました。その研究はライフワークとなり、自身の喜びでもあり楽しみでもありました。今回の言葉には、その研究成果が見てとれます。
一時的に困難なことがあっても、長い人間の歴史を俯瞰してみれば、(生成)発展の一コマである。そうした見方ができるようになると、困難は困難でなくなり、打開・発展の道が見えてくる。誰にもひらかれているその道を見出したなら、道はひらける。これはまさに幸之助が、経営の場において日々考え、信じ、実践してきたことでもありました。
繁栄・平和・幸福への道は必ずあるといわれれば、はじめて聞かれる方などは本当に信じていいのかと思われることでしょう。いま逆境にある方には、いまいましく感じられるかもしれません。しかし幸之助と同様、幾多の困難・試練を乗り越えて自己を練磨し、人間としての成功を求め続けている人ならば、自然に受け入れられるのではないでしょうか。
学び
眼前の「困難」も限りない発展の「一コマ」。
そう考えることができるだけの哲学、大局観を身につけたい。