日本の国土が国土として変わらないように、日本人の本質というものは決して変わらないと思います。日本人はあくまで日本人なのです。
『日本と日本人について』(1982)
解説
松下幸之助は『実践経営哲学』という著書でこういっています。“正しい経営理念というものは、基本的にはいつの時代にも通ずるものである。経営というのは、結局、人間が人間自身の幸せをめざして行うものなのだから、人間の本質がいつの時代においても変わらないものである以上、正しい経営理念も基本的に不変であると考えられる。だからこそ、それだけ正しい経営理念をもつことが大切なのである”。
経営理念とはそれが正しいものであるかぎり、人間の「本質」と同様に不変のものとなる――。どの企業の理念にも素晴らしい言葉が連ねられているものですが、それらは創業者の血と汗と涙の結晶であり、体験によって生まれた思念や情念の発露といえます。継承者たちには、理念に息づく創業者の「本質」・本心をしっかりと把握した上で、その意図するところを時代に応じてかたちにしていくことが求められているのです。
今回の言葉に話を戻せば、一日本人としての幸之助は、日本人という存在の継承者の一人ということになります。では継承者としての責務とはなにか。それはやはり日本人自身の幸せをめざすべく、日本人の「本質」を把握して、その特性を生かしていくことなのだと、幸之助は強く認識していたのです。だからこそ実際に(これまでのコラムでも紹介したように)、日本人についての研究にとりくんだのでしょう。
こんな話があります。幸之助が、ある禅僧と対話したときのことです。その高僧は、禅宗はいつか自然消滅すると断言します。ならば松下電器はどうか……、同じだろうと幸之助は考えます。そして人間も、必ずいつか死ぬ。それでもその瞬間までは永遠に生きるつもりでベストをつくす。それが使命ではないか、という大いなる気づきを得たのです。
現代日本をとりまく環境変化のスピードが加速化する中、一日本人としても一企業人としても、「本質」を見失わず今日に生かしていくことは、ますます至難の業となることでしょう。しかし日本人がその至難を至難とせず、果たすべき責務として放棄しないかぎりは、日本人は永遠に消滅しない。そうした使命観に立って、いまという瞬間を、ともに精一杯生きたいものです。
学び
本質を知り、本質に生きる。
それは、永遠を生きることにつながる。