お互い日本人に生まれたということは、これは自分の意志ではない。いわば運命ともいうべきものであろう。そのことは、われわれの仕事についてもある程度いえるのではないか。ある会社に入る、何らかの職業を選ぶという場合、たしかに自分で決めるにはちがいないが、同時に自分の意志を超えた大きな力の導きがあったと考えられないこともない。そう考えて、そこに、ある種の悟りをもつというか度胸をすえることも一つの行き方だと思う。そして、素直に与えられた環境に没入し、精進努力してゆく。そういうところに大きな安心感もわき、より力強い働きも生まれてくると思う。

思うまま』(1971)) 

解説

 「会社に入る」ということに関して、松下幸之助は新入社員に向けてこんなことをいっています。入社して、初出勤の日に、なにをすべきか。それは、家に戻ったら、まず親に「いい会社に入った。ここで大いに仕事をしてみたい」という心意気を言葉に出して言うことだ、というのです。

 もしかしたら会社の実情は違うかもしれない。しかし自分が志望し、“ここだ!”と思って入った会社を信じ、その縁を大切にする。そんな心がまえで臨めば、きっといい会社にみえてくるにちがいない。また、そうした力強い言葉を聞いて、親は安心し、喜んでくれる。さらには会社の宣伝を周囲にしてくれるだろう(それは立派な広報活動にもなる)。

 そして懸命に日々の仕事にとり組むなかで会社の問題・課題がみつかったら、それらをしっかり受け止め、改善していくための提案をしていけばいい……。

 この幸之助の訴えは、物事を好転させていくための行き方・考え方であり、今回の言葉にある「ある種の悟り」をもち、「度胸をすえる」こと、その上で「精進努力してゆく」ことでもあるのです。 

学び

一度自分で決めたのなら、まずは信じて、とことんやってみる。