絶えず自己認識、自己観照する。自分の会社は今、どれほどの力があるか。そういう力があるとすれば、この仕事をしなくてはならない。また、できるだろうと、こういうことを考えて、私は仕事をしているわけです。そう申しましても時には、自己認識を誤って、力がないのにあると考えてみたり、力があるのにないとしてやるべきことをしなかったりする場合も多々あります。が、つとめてそういうようなことのないよう、力を絶えず計りつつ、その力にふさわしい仕事を進めていこうということは、これは会社の方針として常に考えているわけです。日本の国また然りです。日本人また然りです。
『かえりみて明日を思う』(1973)
解説
正しく「自己認識」することを、松下幸之助は自社の社員によく求めていました。以下は、『松風』(松下電器社内誌)に載せられた、1961年11月、幸之助の誕生パーティーでの話です。
「(松下電器とわが国が先進国の列に入ることは)必ずできると思います。それは、『できる』と信じるか『できない』と思うかによって決まると私は思います。これはやはり『できる』と考えてやっていかなくてはいけません。志を大きく持たなければいけません。そしてそのためには自分は何をなすべきかということが次に起こってくると思うのです。その第一歩としては、足もとの堅実さということが大事です。言い換えると、己を知るということに通じると思います。
日本を先進国の列に入れるという望みを遂げたいが、自社の実状はどうか、また自分自身はどうか、こういうことを正当に判断してそこから出発しなくてはならないと思うのです。まず今日の松下電器の総合した実力というものはどういうものであるかを考えなければならない。そしてそれを正しく認識しなくてはいけない。その認識に立って、松下電器の行動が新たに生まれなくてはいけない。こういうことを私は今までくり返し申してきたように思います。
いたずらに大を夢みてそれにとらわれたということはなかったように思います。望みが大きければ大きいほど、自分の足もと、自分の力、そういうものの再認識から始めなければいけません。これはいかなる場合でも、また今後、松下電器がどれだけ大を成すにいたっても、さらにより高い仕事をするために、こういうことを考えることが絶対に必要ではないかと思うのです。刻々移り変わる情勢に、刻々自己認識をしていくということでなくてはなりません。そしてこれはやはり皆さんの自覚というものから生まれてくると思います」
“世界に追いつき追いこせ”の気概が漲っていた時代らしい発言です。志が大きいほど、己を知ること、自覚が絶対に必要――大きな仕事を成し遂げてきた幸之助だからこそ、説得力のある言葉だといえるでしょう。そしてこの考え方は、世界をリードする立場となった現代の日本でも十分通用するものではないでしょうか。
学び
世界は刻々と変わる。
自分も刻々と変化・成長し、刻々と自己認識を改めていく。