日本人はこれまで、いろいろの思想や宗教などのものの考え方をとり入れ、それを日本人の伝統の精神という木を成長させる肥料としてきたのではないでしょうか。

日本と日本人について』(1982)

解説

 伝統というものを経営の場において生かすことがいかに困難か、それはいうまでもないでしょう。伝統に固執して経営破綻する会社があります。伝統を捨てることで、やはり経営破綻する会社もあります。一方、伝統を捨てることで生き残る会社もあるでしょう。さらには伝統を生かしつつ、刻々と変化する時代・環境に適応して、生存しつづける会社もあるはずです。

 いずれにせよ、企業が生存しつづけるためには、伝統の本質を真に理解したうえでそれをどう生かすかを考え抜くことが、経営者には求められるといえましょう。

 日本は、老舗企業の数の多さが世界でもずば抜けているといわれます。つまり歴史や伝統を生かしつづけることに長けた“能力”や“DNA”を、日本企業と日本人が潜在的に持していると考えてもよいでしょう。“持続的成長”という言葉がもてはやされる現代に、この能力を各方面でよりうまく生かすことができたなら、日本の繁栄はゆるぎないものになるのかもしれません。

 幸之助はこの日本人の能力を“主座を保つ”という言葉で表現しました。海外から輸入された「考え方」を「肥料」にするには自己が流されるようではいけない。近年の目まぐるしいグローバル化の流れにも、流されないで生きていく。そうした生き方を日本人は本来得意としてきたのであり、それが未来を切りひらく術ともなることを現代の日本人はもっと強く認識すべきではないでしょうか。

学び

とり入れて、成長する。

決して流されず、成長する。