この世における人と人とのつながりを、もうすこし大事にしてみたい。もうすこしありがたく考えたい。不平や不満で心を暗くする前に、縁のあったことを謙虚に喜びあい、その喜びの心で、誠意と熱意をもって、おたがいのつながりをさらに強めてゆきたい。そこから、暗黒をも光明に変えるぐらいの、力強い働きが生まれてくるであろう。
『道をひらく』(1968)
解説
「ありがたく考え」る。「縁のあったことを謙虚に喜びあ」う。今回の言葉で松下幸之助は、“感謝”するという日本人が昔から大切にしてきた感情の重要性と効用を伝えようとしています。
“物をつくる前に人をつくる”。あまりにも有名な幸之助の言葉ですが、幸之助が“人をつくる”うえで、松下電器の社員に示した遵奉すべき7つの精神にも、その6番目に“感謝報恩”という文字がみえます。
また、最晩年に『PHP』誌に連載していた原稿をもとに編集、没後、刊行された『人生談義』のなかでも“人間の心というものは一面利己的ですが、また一面で非常に報恩的といいますかね、恩を感じるものです。恩ということばが古くさければ、好意を感じて、それに報いると言いかえてもいい。それを皆やっていますね。また、その感謝報恩の念がなかったら、イヌやネコと同じでね、いや、それ以下かもしれない。人間の価値はありませんよ”というほど、幸之助は感謝の念に重きをおいていました。
こうした幸之助の考え方は、いまの時代に通用しないものでしょうか。グローバル社会に日本が貢献するうえで、徳行国家たれ、と幸之助はいいましたが、人間の徳の根本にはこの“感謝”の心が欠かせません。国家の外交にせよ、投資や提携交渉といった民間の企業活動にせよ、感謝の心というものが、今後も日本人の繁栄・幸福の安全弁となるのではないでしょうか。
学び
感謝の心は十分か。
イヌやネコと同じになっていないか。