若手、 中堅、 幹部社員それぞれが自らを高めるためになすべきこと、 考えるべきことは何か。『商売心得帖』『経営心得帖』に続く 、「心得帖」シリーズ第3弾。

まえがき

 今日の産業界は、きのうまで時代の先端を切っていた知識や技術が、きょうはもう過去のものになってしまうといったことが少なからず起こるほどの、急激かつめざましい進展を遂げつつあります。しかもその変化は、今後、ますます速く大きくなっていくものと考えられます。したがって、今日のビジネスマン、社員の人たちには、そうした刻々の時代の進展に十分対応できるよう、たえずみずからを磨き高めていく努力が求められていると言えましょう。
 それは一面、大変といえば大変、むずかしいといえばむずかしいことです。しかし、そのような課題にみずから進んで意欲的に取り組み、実力の向上をはかっていくところからこそ、社員としての一層の仕事のしがい、生きがいといったものも生まれてくるのではないでしょうか。
 仕事というものは、本来、きわめて奥行きが深いもので、やればやるほどゆたかな味わいが出てくるものです。つまり、"きょう一日、自分ながらよくやった" と、自分で自分をほめられるほどに一生懸命仕事に取り組む日々を重ねていってこそ、自分の実力が向上し、仕事の成果も高まります。また、その仕事を通じ、企業の活動を通じて人びとの役に立つこともできて、社員としての喜びや生きがいといったものを、よりゆたかに味わうことができるのだと思うのです。
 本書は、企業に働く社員の方がたにとって大切と考えられる心得のいくつかについてまとめたものです。それらは私が、これまでの会社生活の中で、折にふれて考え、社員の人たちにも話してきた事柄ですが、いずれも平凡といえば平凡、あたりまえといえばあたりまえの、ごく基本的なこととも言えましょう。しかし、今日が激動の時代であればこそ、より一層そうした基本的な心得の着実な実行が大切とも考えられます。そのような意味で、刻々に進展する産業界にあって活動する社員の方がたの自己啓発のために、そして充実した人生に結びつく力強い仕事の遂行のために、私なりの体験が、いささかなりともお役に立つならばと願っております。
 なお、社員の心得として大切なことは、本書に示したことのほかにも、いろいろあると思います。私自身、『商売心得帖』『経営心得帖』あるいは『実践経営哲学』『指導者の条件』等の著書において、そうしたことについて記してきておりますが、これからの日本さらには世界の経済を力強く支える社員としての実力を養い高める過程で、それらについてもあわせご高覧いただけるならばまことに幸いです。
  

昭和五十六年八月
松下幸之助

  • 目次

第一章新入社員の心得7
運命と観ずる覚悟を/会社を信頼する/成功する秘訣/無理解な上司、先輩/会社の歴史を知る/礼儀作法は潤滑油/健康管理も仕事のうち/積極的に提言を/仕事の味を知る/自分の働きと給料/"会社は公器"の自覚を
第二章中堅社員の心得33
社長、部長はお得意先/夢見るほどに愛する/知識にとらわれない/信頼される第一歩は/日ごろの訓練がものをいう/自分を高める義務/趣味と本業/実力を売り込む技術/叱られたら一人前/仕事に命を賭ける/スランプと入社時の感激/鍛練、修業の場/すぐれた人を生かす協力を/上役への思いやり
第三章幹部社員の心得73
"部下が悪い"のか/"私の責任です"/プロの実力を養う/人を育てる要諦/部下のじゃまをしない/対立をどう防ぐ/失敗した時に出る真価/禍を福に転ずる/実力を正しく測りつつ....../大事に臨んで間に合う人に/悩みあればこそ....../"道は無限にある"の信念/好きになる