人間の本質や人情の機微など、 人間をさまざまな面から取り上げ、具体的な事例を交えて人の活かし方を語った書。
まえがき
企業経営には、いろいろな事柄が含まれている。製造の問題もあれば販売の問題もある。人事の問題もあれば渉外の問題もある。また、人生、社会的な事柄も含まれている。
しかしながら、そのいずれにしても、結局は人の問題になってくる。経営といい、商売といっても、その内容、あり方を左右するものは、人である。この世の中のすべていっさいは人をぬきにしては考えられない。どのような問題であろうと、人とのかかわりがあるからこそ問題になる。これは当たり前のことである。事業またしかり。経営、商売もしかりである。
だからこそ、われわれは、つねに人間というものを問題にし、その本質を追究していくことが大切になってくる。人間の本質をきわめ、それを実際の各面に活かしていくところに、本当にのぞましい姿が生まれてくるのである。
本書は、そういう人間についての問題を、いろいろな面からとり上げ、具体的な事例にふれて考えてみたものである。こうしたものが、果たしてみなさんのお役に立つかどうかわからない。が、今日のようなきびしい環境においては、とくに"人を活かす"ことが大切になってくるので、私なりに、このような形でまとめてみたしだいである。
ご高覧賜わらばまことに幸せである。
松下幸之助
【新書版】目次
新書版『人を活かす経営』発刊にあたって | 7 |
まえがき(旧版) | 10 |
序章 人を育て活かすために | |
第一章 信頼の経営 | |
信頼することの価値 ―製法の秘密を従業員に― | 28 |
信用の道、商売の道 ―初めて東京へ売りに行って― | 32 |
熱意が人を動かす ―小僧時代に自転車を販売― | 37 |
仕事をまかす ―若者がひらいた出張所― | 43 |
利害にとらわれない態度 ―久保田権四郎さんの話― | 48 |
相談調が大事 ―人を活かす一つのコツ― | 53 |
世間というものは ―世の中は親切な人ばかり― | 57 |
第二章 説得の経営 | |
説得なき説得 ―将軍家光と阿部豊後守― | 62 |
物に説得力あり ―幼き日の二つの思い出― | 67 |
確信あればこそ ―一万個の電池がタダに― | 72 |
たった一度の訪問でも ―区会議員に立候補して― | 78 |
私が説得された話 ―住友銀行と取り引き開始― | 83 |
「信用」を追求する ―取り引き開始前の二万円― | 89 |
百万言を費やすよりも ―一休和尚と地獄極楽― | 95 |
満場一致の賛成を ―誠意をもってあたる― | 99 |
第三章 人間の経営 | |
心はどのようにも動く ―大激論のあとのふしぎな変化―/td> | 106 |
臨機応変に対処する ―謙信と毘沙門天― | 111 |
心を一つにして ―初荷行事で盛り上げる― | 117 |
経営をしているか ―それができるのが人間― | 121 |
その気にさせる ―明治時代の税務署のやり方― | 126 |
人間の尊さを知る ―経営は人間が行なうもの― | 130 |
決めるのはだれか ―松下政経塾と不確実性― | 134 |
部下の提案を活かす ―とにかく一度やらせてみる― | 138 |
六〇%の可能性で ―適任者の選び方― | 143 |
第四章 自省の経営 | |
大将はいかにあるべきか ―とことん競争してやるぞと― | 148 |
自分を戒めるために ―遵奉すべき七精神― | 152 |
指導者のあり方 ―人を育てる上で大切なこと― | 156 |
自分自身への説得 ―「運が強い」と信じさせる― | 159 |
心の転換をはかる ―考え方によって熱も下がる― | 164 |
自分の魂を売る ―同じ品を安く売る他の店― | 168 |
自分の運命に従う ―気に病まずに対処する― | 172 |
くり返し訴える ―お互いの心がまえを固めつつ― | 176 |
悩んでも悩まない ―悩みがあるのが人の常― | 181 |
名医になってほしい ―早期治療の大切さを説く― | 187 |
第五章 信念の経営 | |
自分の考えをもつ ―実らなかった会議― | 194 |
正しいことは通るか ―男と男の約束を守ったら― | 201 |
日ごろの誠意があればこそ ―止められそうになった取り引き― | 206 |
あきらめたらおしまい ―十五万円の無条件貸付― | 211 |
成功の秘訣 ―うまくいかなかった同業者― | 216 |
見方を変える ―自分の仕事の意義を考えて― | 222 |
決意が人を動かす ―ケネディ大統領の態度― | 227 |
自信はどこから ―何が正しいかを基盤に― | 231 |
松下幸之助略年譜 | 236 |