つい最近、すこし健康を害して松下病院に入院し、新館の四階に入れてもらうことになった。何しろ建物は新しいし、設備もよいので、会社の社長室よりもむしろ住みよいくらいで、その上、大きなガラスの窓越しに生駒(いこま)の連山が手に取るように眺められ、思わぬことからその山容にしみじみと接することができたわけである。そして、今更のように、この山の美しさが身に沁みた。
殊にこのごろでは、その姿が春がすみにうっすらにじんで、墨絵のような趣がある。やはり日本の山は美しい。山がなければ、日本の自然もどんなに殺風景なことだろう。
『光雲荘雑記』(1962)