個人といっても、あくまで国家、民族に基礎をおいた個人でなくてはなりません。その肝心の基礎の方を忘れてしまって教育したのでは、いわば無国籍者の集団をつくることになってしまいます。そこにはなんの連帯感もなく、ただ個人の自我と自我、利害と利害がぶつかりあうだけで、そこから生まれるのはいたずらな混乱と争いばかりでしょう。やはり、人間を考え、国家、民族を考え、個人を考え、しかもその三つがバランスがとれ、調和している教育を行なっていかなければなりません。
そしてそれには、いま忘れられている日本の歴史、日本の伝統についての正しい教育が一刻も早くなされなくてはならないと思います。そのようにして将来のわが国はもちろん、世界全体の繁栄発展に寄与貢献しうる人材の育成をはかっていくことが、きわめて大切だと思うのです。
『日本と日本人について』(1982)