教えずしては、何ものも生まれてはこないのである。教えるということは、後輩に対する先輩の、人間としての大事なつとめなのである。その大事なつとめを、おたがいに毅然とした態度で、人間としての深い愛情と熱意をもって果たしているかどうか。教えることに、もっと熱意を持ちたい。そして、教えられることに、もっと謙虚でありたい。

道をひらく』(1968)

解説

 松下幸之助は人間が学ぶ姿勢として、“自修自得”の大切さを説きましたが、それはなにも“教えない・教えてもらわない”ことをよしとしたのではありません。

 大正末期から昭和初期にかけて、幸之助率いる松下電器(現パナソニック)は急成長を遂げていました。人材を集めるのが困難になるほどの発展ぶりのなか、昭和9年(1934)、“小学校卒業者を対象に3年間で旧制中等学校5年間の商業・工業課程修了と同程度の学力をつけるとともに、人間的修養をくわえ、卒業と同時に実務ができる店員を養成する”ことを目的に、幸之助は門真に店員養成所を開校します。

 かねてから幸之助は、ものの生産と従業員教育が同時に行える工場学校をつくりたいという夢を抱いており、いよいよそれを実現すべく、自前の教育機関を設立したのです。昭和10年(1935)末には社員養成所と改称、その後、戦争の激化により閉鎖を余儀なくされましたが、この養成所は、のちに松下電器の幹部となって経営の重責をになう社員を輩出しました。“ものをつくる前に人をつくる”という自らの願いを、実際に“かたち”にしたといえるでしょう。

 「教える・教えられる」ことを大切にする。教えることに「深い愛情と熱意」を注ぐ。それができない人は「人間としての大事なつとめ」を放棄していることになる。幸之助の教育に対する基本姿勢です。

学び

「教える」ことに熱意はあるか。

「人間としての大事なつとめ」を果たしているか。