大正時代から続く物流企業、丸共通運。創業100年を超える長寿企業でありながら、新たな取り組みを行ない、成長と進化を続けている。物流業界においては、ドローンやAI(人工知能)による物流システムなど、これまでにないテクノロジーが登場し、生き残りを迫られる中、丸共通運は業界でも数少ない「理念経営」に取り組む。個人プレイヤーの多いトラックドライバーをはじめ、個性の強い従業員を、理念によってどうまとめようとしているのか。四代目代表である鈴木朝生社長(「松下幸之助経営塾」卒塾生)に聞いた。

物だけではなく、目に見えない価値を運ぶ~丸共通運株式会社・鈴木朝生代表取締役社長(前編)からのつづき

<実践! 幸之助哲学>
未来を見据えた理念経営への挑戦ーー後編

歴史を紐解いて発見した「創業の精神」

丸共通運が産声を上げたのは大正三(一九一四)年。愛知県に鉄道が整備され、新たな駅が新設されていた時期だ。この時、駅発着の荷物を地域に届けたり集めたりする商いを始めたのが、創業者である鈴木直太郎氏。昭和になってからは、大八車からトラックへと輸送手段を変化させ、やがて自動車部品から食料品まで取り扱う物流企業へと発展していった。

そもそも創業者は、なぜ荷物を運ぶ仕事を始めたのか。鈴木さんは、会社設立七十年の節目に会社の歴史をまとめようとしていて、その答えにたどり着いたと話す。

「たまたま私の実家が駅の真ん前にあり、列車から降ろされた荷物が家の前に毎日山のように積まれていたそうです。それを見た初代が、これをお宅まで届けてあげたらみんなが喜ぶんじゃないか、と思って始めたのがきっかけだったようです」
荷物を取りにくる人の代わりに、これを届けてあげれば喜ばれる。困っている人を助けられる。そんな「創業の精神」に触れた時、鈴木さんは、これを理念によって伝える必要があると感じた。

「現在の経営理念は、創業の精神がわかりやすく伝わるものになっていない気がします。今年から理念の見直しを本格的に行なう予定ですが、新しい理念は、誰でもすぐ理解できるものにしようと思っています。まだ決定ではありませんが、『やさしさ、つながりといった目に見えないものを届ける』といった理念になるかと」

経営塾の受講中、新しい理念を打ち立てるところまでは至らなかったものの、創業の精神が理念づくりに重要だということがわかっただけでもよかったと話す。

suzuki naotaro-joint stock company.png

大正3(1914)年、創業者・鈴木直太郎が「共同合資会社」を設立する

物流は運搬業ではない、サービス業だ

社長に就任した時、三代目は会長職となり、経営を全面的に自分に委ねてくれたと言う。この時、鈴木さんはまだ三十七歳だった。
「社長をやるなら早いほうがいいだろうということで、すんなり代表の座を明け渡してくれました。以来、会社のことは私、地域のことは会長というふうに、うまく役割分担しています。経営には全く口を出さず、任せてくれていることに感謝しています」

四代目に就任する前から、社内の組織改革に取り組んできた。一人ひとりのスキルに頼るのではなく、チーム一丸で物流サービスの品質を高めるために、部門を再編。以前は「輸送部門」「物流部門」と仕事に応じて部門を分けていたのを、「自動車部門」「食品部門」と、顧客の分野ごとに分けた。
「こうすることで、自動車部門は、自動車業界のお客様だけに集中することができ、業界特有の困りごとやニーズに意識を向けられるようになります。また、運搬量をこなすことではなく、お客様の満足を高めるサービス業こそが仕事なのだ、ということを従業員に明確に打ち出せると思いました」

荷物を運ぶことそのものが目的ではなく、お客様に喜んでいただくことが目的。荷物の運搬は、それを実現する手段の一つだということを、鈴木さんは訴えたかったと話す。「経営塾で最も大きく変わったのは、私の考え方です。以前は、自然の理法なんて全然頭にありませんでしたから。しかし、今は常に『自然の理法にかなっているか』と自問自答するようになりました」。
同じように、従業員にも「物流におけるサービスとは何か」を自問自答してほしいと、鈴木さんは言う。

教育や人事システムを改革

社長になってから、従業員の年齢構成にも変化が表れた。鈴木さんが行なった組織改革に違和感を覚えた古株社員は、会社を去っていった。代わりに、若手の登用に積極的に取り組んだ。
「古株の方には冷たい対応だったかもしれませんが、その方々と、二十年後も一緒に仕事をしているかどうかを考えたんです。厳しい選択でしたが、そのおかげで、新しい理念が受け入れられやすい環境ができあがったと思います」

今後の課題は、新しい理念をいかに浸透させていくか。これについて鈴木さんは、教育システムの整備と人事制度の改革がカギになると考えている。

「まず教育ですが、従業員一人ひとりが理念について考えられるよう、『理念についてどう思う?』という問いかけを定期的にすることが大切だと思っています。月一回の班別会議や部門会議などで、それを行なっていくつもりです」
研修制度の見直しにも着手している。これまでの研修は、全社員を対象としていたが、社員は必要性を感じなければ受講しないという現象が生まれていた。これを、誰が、いつ、何を受講すればいいのか明確にし、スケジューリングすることで、研修を現場に定着させようとしている。

そして、従業員の意識変革につながる人事制度改革にも乗り出している。物流の世界では、荷物の運搬量が多い人ほど稼げる「歩合」の考え方が一般的だ。しかしこれだと、鈴木さんが懸念している「運送の作業化」が進んでしまう恐れがある。物流はサービス業だということを示すためにも、歩合をなるべく減らす賃金体系を考えている。
「具体的には、運んだ量や時間ではなく、サービス品質を軸にした評価制度を検討しています。サービスの質が高い従業員が、より多くの収入を得られるという仕組みです」

employee training-president instructor.jpg

社員研修に社長みずから講師を務める

物流業界の未来を見据える

鈴木さんは、これから先も、人が物を運ぶ事業があり続けるとは考えていない。何十年後になるかはわからないが、マシンが会社や工場の前までやってきて、荷物をポンと置いて去っていく時代がいずれやってくる。そうなれば、物流業界に人間は必要でなくなる。
「とはいえ、あと十年から二十年は人が物を運んでいるでしょうし、たとえ物流が自動化されたとしても、運ぶという行為がなくなることはありません。その時大切になるのは、何を運ぶかということ。物だけではありません。やさしさやつながりといった目に見えないものを運ぶことが、重要になってきます。それを理念で伝えたいと思っています」

先ほどの人事制度改革も、こうした時代の変化を見越してのものだと言う。将来、運送にそれほど人が必要でなくなると、現在のように歩合で稼げる環境ではなくなる。そうなった時、歩合ではなく、サービス品質で稼げる給与体系であれば、従業員を活かし切ることにつながると考えている。

経営塾の受講中、鈴木さんは自分の夢を五つ挙げた。その一つが「物流業界の根本を変革する」だ。
「現在の物流業界は、大手の仕事を中小が下請けするという構図になっています。そのため、大手の仕事を奪い合い、過当競争に陥るという側面があります。幸い丸共通運は、企業から直接物流の仕事を受注しているので、この構図の中にはいませんが、業界全体がそうなることが理想ではないでしょうか。本来の物流の姿は、お客様のニーズを直接聞き、それを反映したサービスを提供すること。そんな会社が増え、志を同じくする者同士がつながることで、業界は変わると思っています」

新しい理念が従業員の心を一つにし、業界に影響を与えることができれば、物流の品質はさらに向上する。それを信じ、鈴木さんは理念と向き合い続けている。

(おわり)

経営セミナー 松下幸之助経営塾




◆『衆知』2021.3-4より

衆知21.3-4



DATA

丸共通運 株式会社

[代表取締役社長]鈴木朝生
[本社]〒447-0842
     愛知県碧南市浜田町4丁目34番地
TEL 0566-48-3214
FAX 0566-48-3215
設立...1951年(創業1914年)
資本金...7,000万円
事業内容...一般貨物自動車運送事業/倉庫業/貨物運送取扱事業/荷役及び梱包作業の請負事業/自動車整備業/  損害保険代理店業/派遣事業/物流、流通加工請負(内職市場チェーン)