大正時代から続く物流企業、丸共通運。創業100年を超える長寿企業でありながら、新たな取り組みを行ない、成長と進化を続けている。物流業界においては、ドローンやAI(人工知能)による物流システムなど、これまでにないテクノロジーが登場し、生き残りを迫られる中、丸共通運は業界でも数少ない「理念経営」に取り組む。個人プレイヤーの多いトラックドライバーをはじめ、個性の強い従業員を、理念によってどうまとめようとしているのか。四代目代表である鈴木朝生社長(「松下幸之助経営塾」卒塾生)に聞いた。

<実践! 幸之助哲学>
未来を見据えた理念経営への挑戦ーー前編

エンジニアから経営者へと大転換

大きな倉庫から、一台、また一台と大型トラックが出発していく。トラックのボディには「MARUKYO」の文字。数トンに及ぶ大量の荷物を積み込み、目的地へと走り去っていく。その様子はまさに圧巻。この巨大な車体があるからこそ、必要な物資が日本全国に届けられていく。「平時はもちろん、災害時にはトラック輸送が大活躍します。おにぎりを届けたり、必要な物品をいち早く運んだり。そう考えると、物を運ぶこと自体、社会貢献なのかもしれませんね」と鈴木さん。謙虚な物腰の中に、世の中の役に立っているという自信が垣間見える。

四代目の代表として、三十七歳の時から経営の舵取りをしている。しかし、最初から物流業界に身を投じていたわけではない。創業一家に生まれながら、後を継ぐことは一切考えず、学校を卒業したあとは大手自動車メーカーに就職。生産技術のエンジニアとして、経営側ではなく、従業員として長らく経験を積んだ。そんな鈴木さんが、なぜ家業を継承する道を選んだのか。そこには、自身が目の当たりにした経営陣の交代劇がかかわっていると話す。技術職として腕を磨いていた二十代後半、このままエンジニアとしての道を極めるか、マネジメントの道に進むかという今後の人生を左右する出来事が起こった。

「当時、私が勤めていた企業は、様々な事情から組織が不安定になっていました。それを立て直すために入り込んできたのが外資。これを機に、組織がみるみる変革していくのを体感したのです。私にとってはそれが興味深くて。経営によって、こんなにも変わるものかと思いました」
経営は面白い。組織を良くするのも悪くするのも経営次第。その醍醐味に気づいた鈴木さんは、エンジニアではなく、マネジメントの道を進むことを決断。自動車メーカーを辞め、丸共通運に転職することにした。自分がリーダーとして活躍できる身近なステージが、丸共通運だと思ったからだ。

家業とはいえ、物流業界は全くの未経験。まずは現場からスタートし、ドライバーとして荷物を運んだり、倉庫内での業務をこなしたりするなど、体で物流の仕事を覚えていった。初めて尽くしではあったが、不思議と苦はなかったと言う。前職の経験が役に立つ場面も多かった。
「丸共通運のお客様は、主に製造業の企業様。私は以前、製造業の現場で仕事をしていたので、製造業のお客様が物流に何を求めているのか、言われなくても察することができたのです。顧客のニーズをうまくつかめていたのかなと思います」

やがて経営企画室に配属され、管理職に。この頃から鈴木さんは、丸共通運が組織立って動いていないことが気になり始めたと言う。
「一人ひとりがバラバラに動いているという印象でした。それでも会社は回っていたので、問題ないといえばなかったのですが、従業員が増えるたびに、私は『このままでは会社としてやっていけない』と思うようになりました」

個性の強い従業員をどうまとめるか......

二〇一九年、鈴木さんは一冊の書籍を出版した。題名は『稼ぐ! トラックドライバー』(幻冬舎刊)。トラックドライバーという仕事の魅力を知ってもらいたいと思い筆をとった。ドライバーは、いってみれば一人親方のようなもの。運転技術の腕一本で、なかには高収入を稼ぎ出す人もいる。丸共通運に勤めているドライバーも同様。歩合給という給与体系があるからだ。
また、四六時中社内にいるオフィス職とは違い、トラックに乗っている時は誰にも干渉されない。決められた時間に荷物を届ける、交通ルールを守るといった約束をきちんと守れば、上司にガミガミ言われることはない。職場の雰囲気に神経をとがらせ、人間関係に過剰な気を使う場面が極端に少ないのだ。そういう意味では、かなりストレスフリーな職業といえる。

そして、何より自由なのは「働き方」だと、鈴木さんは本の中で語っている。
「運ぶ距離でタイプ分けすると、近距離、中距離、長距離の三つに分けられるでしょう(中略)。長距離は、道中にあるトラックステーションや、行き先の宿泊施設などで寝泊まりしながら、数日かけて往復する距離のことで、例えば、愛知県から東北、四国、九州などへ向かうドライバーがこのタイプです(中略)。長距離が好きなドライバーも多く、私の会社のドライバーにも、例えば、持ち運び可能なテレビを持ち込むなどして、快適に働いている人がいます。距離が重要なのは、どのタイプのドライバーになるかによって働き方が変わり、ライフスタイルも変わるからです」(前掲著書より)
プライベートを大切にするか、収入を増やすか、それすらも自由に選択できるのがドライバーの仕事。突発的な運送の案件が入ってきた場合、勤務時間外であっても、時間が空いていれば受けることができる。それによって収入をどんどん増やすドライバーもいる。つまり、二十四時間をどう使い、どうお金に変えるかを自由にコントロールできるのが、トラックドライバーの仕事の特長なのだ。

ところが、会社経営の立場に立つと、この長所が裏目に出ることがある。自由な選択の中で生きてきたドライバーは、それぞれが自立しており、個性が強い。それをまとめ上げ、同じ方向を向いてもらうのは簡単ではない。経営陣がどんなに檄を飛ばしたとしても、なかなか言うことをきいてくれない。
「従業員数が二〇〇人台の時は、顔も名前も把握できていたので、一人ひとりと向き合ってこちらの考えを伝えることができました。でも三〇〇人を超えると、さすがにマンツーマンでは間に合わなくなります」

会社組織にいる以上は、会社の一員として力を尽くしてもらう必要がある。そのためには、経営者が考えていることを、従業員にしっかり伝えていかなければならない。何かよい伝達手段はないものか。「これが丸共通運だ!」という旗印になるものはないか。そう考えた時に鈴木さんが強く意識したのが、経営理念だ。

理念経営への悩み

丸共通運の経営理念は「仕事を通して社会に貢献し、お客様、社員にとって存在感のある会社であり、仕事に喜びと誇りをもち、働きがいのある会社をめざす」だ。この理念は立派な文言ではあるが、社内にほとんど浸透していないことに気づいていた。

もう一つ、鈴木さんを悩ませたのが、この理念は自分がつくったものではない、という点だ。
「私は創業者でもなければ、理念をつくったわけでもありません。そのため、私自身、理念が腑に落ちていなかったのです。経営理念を経営にどう活かすのかも、イメージできていませんでした」

理念自体は素晴らしいものだと感じていた。だが、「自分らしさ」がない。とはいえ、経営理念にもとづいた経営をしていかなければ、丸共通運の舵取りは今後、怪しくなる。どうしたものか......と一人頭を抱えていた時に出合ったのが、松下幸之助経営塾だった。
「理念経営といえば、松下幸之助さんですよね。私は、松下さんが実践した理念経営の手法を知りたくて、塾の受講を決めたのです」

受講初日、参加者の顔ぶれを見た鈴木さんは「ずいぶん個性的な人ばかりだな」と思ったと言う。自分とは業種も経歴も全く違う経営者との交流は、多くの刺激を得てとても楽しく充実したものだった。だが、講座自体は、手放しに「楽しい」と言えるものではなかった。
「経営塾は、知識を得るための講座ではありません。正解のないテーマに対し、自分なりの答えを出す。そういう内容です。例えば、松下さんが経営の現場で実際に体験したエピソードなどを交えながら、『こんな時、あなたならどうしますか?』と問われる。まるで松下さんと問答しているようでした」

答えられなくて困ってしまった問いもある。「人材育成とは何か」と聞かれ、言葉が出てこなかった。日頃考えていない本質的なことを、いきなり聞かれたからだ。だが、こうしたことを繰り返しているうち、経営にとって何が重要か少しずつ明らかになってきた。
「なかでも印象に残っているのが、自分がやっていることが『自然の理法』にかなっているかどうかをチェックする学び。これによって、知識だけで経営しようとしている自分に気づかされました」

松下幸之助の言う「自然の理法」とは、大自然の中にある、万物を生成発展させていく法則を指す。この法則にかなえば、事業は発展していくが、無理をしたり欲を出したりすると物事はうまくいかなくなる。鈴木さんは「経営はテクニックではない。自然の理法にかなっていることが重要だ」と考え、あらためて丸共通運の業務を振り返ってみた。

物流の仕事は、荷物を様々な場所に届けることがミッションだ。だが、ともすれば物を右から左へ運ぶ「作業」になりがち。やっつけ仕事になってしまった瞬間、効率性だけが重視され、低価格競争に巻き込まれてしまう。
「だからこそ、物流の品質を高めなければと思いました。物流は人を介して行なうものなので、人と人とのつながりの質を高めることが、品質アップにつながります。でも、物流の品質と言われてもピンとこない。お客様が近くにいても、あいさつすらしないで『作業』だけに没頭する、ということが現場で起こっていました」

物流の仕事を「作業」にしてしまったら、丸共通運が運ぶ意味や価値がなくなってしまう。それは、自然の理法にかなっていないのではないか。「作業」にならないためには、従業員が行動レベルにまで落とし込める経営理念が必要ではないか......。鈴木さんの中に、理念を見直したいという気持ちが沸き上がってきた。


◆物だけではなく、目に見えない価値を運ぶ(後編)へつづく

経営セミナー 松下幸之助経営塾




◆『衆知』2021.3-4より

衆知21.3-4



DATA

丸共通運 株式会社

[代表取締役社長]鈴木朝生
[本社]〒447-0842
     愛知県碧南市浜田町4丁目34番地
TEL 0566-48-3214
FAX 0566-48-3215
設立...1951年(創業1914年)
資本金...7,000万円
事業内容...一般貨物自動車運送事業/倉庫業/貨物運送取扱事業/荷役及び梱包作業の請負事業/自動車整備業/  損害保険代理店業/派遣事業/物流、流通加工請負(内職市場チェーン)