昭和55(1980)年9月12日、英文版『PHP』誌がこの年に創刊10周年を迎えるにあたり、松下幸之助は同誌を刊行する国際PHP研究所を訪問して所員を激励しました。これまでの10年間を準備期間と位置づけ、「これだけ準備したのだから、これからの発展は疑いないだろう」と言っています(※1)。

 それから約2カ月後の11月10日に、スペイン語版『PHP』誌が創刊されました(写真)。英文版『PHP』誌の創刊時と同様に、まず創刊準備号が発刊され、次に創刊号となっています。


 スペイン語版の創刊は、スペイン語圏に向けての情報発信を期待した日本の外務省の要請に応じたもので、外務省から元スペイン大使が編集顧問として国際PHP研究所に派遣され(速記録№5609)、さらに創刊後の3年間で2,000万円もの援助がなされました(速記録№1886)。創刊号は、幸之助の著書『実践経営哲学』の中の「まず経営理念を確立すること」が掲載されており、発行部数は2万部で、スペインのほか、メキシコ、ペルー、ベネズエラ、アルゼンチンなど20カ国で販売されました。


 昭和58(1983)年3月2日、幸之助はスペイン国王フアン・カルロス一世から、民間人に対して贈られる最高の勲章である「メリト・シビル大十字章」を授与されました(※2)。スペイン松下電器の業績が好調であったことに加え(※3)、スペイン語版『PHP』誌の発刊も評価対象になっています。



1)「国際PHPマンスリー」昭和55(1980)年10月号より。録音は現存していませんが、この日の訪問の写真集が記録として残されています。


2)「松下相談役にスペインから勲章」『松下電器写真ニュース』第3305号、松下電器産業、昭和58(1983)年3月15日発行。


3)スペイン松下電器は昭和48(1973)年、現地のアングロ社を買収して設立しましたが、平成16(2004)年に解散しています。松下電器産業社史室編『社史 松下電器 変革の三十年 1978-2007』(松下電器産業、2008年)「海外事業史」87頁。