PHP研究所は昭和56(1981)年11月3日、創設35周年を迎えました。記念式典と記念感謝会が京都グランドホテル(現・リーガロイヤルホテル京都)で開かれ、その様子を伝える動画、音声、写真などが残っています(※1)。

 式典に先立って、松下幸之助は午前8時に伊勢神宮の内宮に参拝しました。神宮に次のような創設35周年の「誓いの詞」を捧げています。


 日本民族の総氏神であらせられる神宮の御前において、新たな思いで宇宙の根源にお誓い申します。私どもは人智に促われず、自然の理に従う素直な心の培養に努めます。私どもは人間としての偉大な本質が与えられていることを心から感謝し、その本質の自覚と顕現に努めます。私どもは、世界の真の平和と繁栄のため、万物の王者としての天与の使命の達成に努めます。五十六年十一月三日 松下幸之助

(速記録№1901)


 その後、幸之助は京都へ移り、記念式典が12時55分から13時30分まで開催されました。幸之助は「今日はみなさんの発意でこの催しをしていただいたということで、私といたしましても主催者という立場にあるようであり、そうでないようでもあるような立場」と述べています(速記録№1897)。15分の休憩の後、13時45分から「春秋の間」で感謝会が開かれました。


 その冒頭で、所員から幸之助へ、彫刻家・堀口泰造氏によるブロンズ像「素直の像」が贈呈されました。これを受けて幸之助は「私はこの感謝会がこういう形で挙行されるとは、実はここへ来るまでは知らなかった」と語っています(速記録№1898)。所員から幸之助へ感謝の意を示すため、感謝会のパンフレットに幸之助の名前は、「主催者」として記載されていませんでした。


 感謝会は、山下俊彦・松下電器社長(当時)など松下電器役員の他、初期PHP活動に尽力したOBの参加も得ました。OB代表として、月刊誌『PHP』第2代編集長で当時は松下電器取締役の尾崎和三郎氏が登壇し、PHP研究所創設の際、幸之助が「人間には繁栄・平和・幸福が与えられている。ところが、生じっかな人智が災いして、その与えられたる繁栄・平和・幸福を素直に表現、顕現できない」(速記録№1900)と語っていたと回顧しています。尾崎氏によれば、人間についての研究が大切であると幸之助が述べたのは、創設満2周年の時からだということです。


 演劇など数々の出し物もあり、最後は万歳三唱の後、幸之助と来賓に花束が贈呈されて賑やかに締めくくられました。



1)動画は№A181078、C181105、ODA181018、ODA181019の4本、録音は№1897、1898、1899、1900の4本、その他写真アルバム12冊が現存しています。