昭和38(1963)年8月29日、松下幸之助はNHKの番組「総理と語る」に出演しました(写真)。午後7時30分から1時間、テレビジョンではNHK総合、ラジオではNHK第一で放送されています。この「総理と語る」は、昭和36(1961)年11月に第1回が放送されていて、池田勇人総理の希望により、幸之助は第6回で「聞き手」を務めました。

 

 池田総理と幸之助は、以前から面識がありました。PHP研究所に残る記録によれば、昭和37(1962)年10月26日、東京の帝国ホテルで開催された総理の「顧問会」に幸之助は出席しています。「この会合は秘密の会合でもあるので、述べられる意見については公表しない」と総理は言っており、幸之助は「会合は意義あるので、毎月出席しようと考える」(松下会長日誌)と記述しています。同年12月20日も、「首相主催の国造り懇談会」に出席しました。

 

 また放送に向け、昭和38(1963)年8月21日の研究会では、幸之助は研究員を相手に「池田首相との対談のリハーサル」を行なっています(研究日誌)。質問する項目については、「生徒心得」「政治の生産性」「治安」「国家権力」「経済国難」があげられました。同月27日にも、「首相との対談準備」と記録があり、「NHKの企画した項目」としては「世界情勢と日本の地位」「アメリカのドル防衛」「国会の運営」「審議の正常化」「外交の基調」「憲法改正問題」「来年度予算編成と減税について」「I.L.O条約について」「人造りについて」「圧力団体について」とされています。幸之助はこれらに対し、「政治の生産性」「物価安定」「治安と教育」「国家権力の行使(あわせて憲法問題)」をテーマの最終候補としてあげました。NHKのあげた項目は時事的な話題が中心だったのに対し、幸之助はより理念的な質問をしたいと考えたようです。

 

 これらをへて、幸之助は放送当日の昼間に行われた収録に臨みました(※1)。後日、松下電器の社内に掲示された『松下電器社内写真ニュース』は、「全国のたくさんの視聴者の目を集めて反響を呼び、本社のほうへも感想が数多く寄せられている」と伝えています(写真)(※2)。

 

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『松下電器社内写真ニュース』第437号

 


1)対談の内容は『松下幸之助発言集12』所収、録音№459。
2)松下電器編・発行『松下電器社内写真ニュース』第437号(昭和38〔1963〕年9月9日発行)。これは1枚のみの紙媒体であり、松下電器社内各所に掲示されたものです。