松下幸之助用語

まず信頼する

 

用語解説

 創業間もなくのころのことであった。ソケット製造のポイントは、煉物という材料の製法にあった。その煉物の技術は、いまでいえば企業秘密、多くの工場では技術が外にもれることを恐れ、工場主の兄弟とか親戚などにしか製法を教えていなかった。しかし、松下幸之助はそれを秘密にはせず、入りたての小僧さんにまで技術を教えた。「秘密にしておくのは、余計な気を遣って面倒だし、だいいち能率が悪い」というのがその理由だった。同業者のなかには、そんな松下幸之助の行き方に忠告する者もいた。しかし結果は、大切な製法を知らされ、また重要な仕事を任されたことを意気に感じ、かえって従業員の士気が高まったというのだ。
 この経験から、松下幸之助は、「人間は信頼されれば、それに応えようとするものだ。信頼してだまされるのなら、もって瞑すべしだ」と考え、その後も人を信頼し、思い切って仕事を任せてきた。人間は信頼に値するもの。これも松下幸之助の基本的な人間の見方の一つである。