おたがいの徳性が高まれば、単に人間関係が良くなるばかりではなく、日常活動も社会活動もスムーズに運び、物も能率的に生産され物的にも豊かな生活がもたらされる。まさに、道徳は実利に結びつくのである。
道徳は実利に結びつく
発表媒体
『PHP』1966年2月号 「あたらしい日本・日本の繁栄譜」
内容抄録
最近は、お互いの生活の上に重要な意味をもった道徳が、ややもすると軽んぜられている傾向が世間一般にあるようです。その結果といってよいと思いますが、昨今のわが国では、青少年の犯罪や非行が非常に多くなっています。このままではわが国は一体どうなるのか。私は今こそお互いが、それぞれの立場において正しい道徳心の涵養ということに真剣にとり組んでゆかなければならないと思います。いつの時代、どこの国においても強調されなければならないのが道徳ですが、今日のわが国ほどその必要性が痛感されるところはないと、私は思うのです。
では、そうした道徳心の涵養がはかられ、人びとが道徳にしたがった生き方をするようになればどうなるか、というと、私はお互いの生活に実利実益が生まれてくると思います。道徳は実利に結びつくなどというと、少なからず奇異に聞こえるかも知れません。しかしよく考えてみると、社会全体の道徳意識が高まれば、まずお互いの精神生活が豊かになり、少なくとも人に迷惑をかけないようになります。
それがさらに進んで互いに愛し合い、それぞれ相手の立場に立ってものを考え、事を行なうことが多くなれば、人間関係もよくなり、日常活動が非常にスムーズにゆくようになるでしょう。また自分の仕事に対しても、誠心誠意これに当たるという態度が養われれば、仕事も能率的になり、自然により多くのものが生み出されるようになる。つまり物質的な面も豊かになって、社会生活に物心両面の利益が生まれてくるのではないでしょうか。
そう考えるならば、私たちは、道徳というものは単に個人的精神的な価値のみにとどまらず、社会的物質的な実利実益を生むものとして、もっともっと高く評価していかなければならないと思います。そして人間生活の各面に、真の道徳に基づいた行ないを率先してやっていかなければなりません。それは結局は自他ともの幸せというか、共存共栄の道をひらくことになるのだと思うのです。