いろいろさまざまなものによってお互い人間の共同生活が成り立ち、自分みずからも生かされていることを正しく知るとき、それらいっさいのものに対しておのずと感謝とか報恩の念がわき、これに敬意を表するという態度も自然に生まれてくるのではないでしょうか。それが人間というものだと思うのです。これは宗教でいうところの慈悲とか愛の精神、あるいは謙虚さとか寛容心などにも通じると思います。

 

 ですから、そういった人間としてのゆたかな心を養い高めつつ、それをもって人も物もいっさいのものをあるがままにみとめ、適切な処遇を行なっていくことを、人間道の一環としてつねに心がけなければならないと思います。いいかえれば、ものみなを容認し、正しく処遇するには、つねに礼の精神が躍動していなければならないわけです。

人間を考える 第一巻』(1975)